主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

祝言までにはまだ相当時間がかかるだろうーー

父の十六夜は無愛想だが家族には優しく、姉や兄が伴侶を迎える時は相手をよく見定めてから送り出していた。

母の息吹はいつも朗らかで、あなたが決めた方なら、と相手にこだわらず送り出していた。

姉たちは母の言いつけを守って祝言の日までは静かに過ごし、男と接する機会を減らして花嫁修業に励んでいたので朧もそれを見習って自室で繕いや読書などをして過ごそうと決めた。


「朧様」


「はい?焔さん?」


部屋の外から声をかけてきたのは焔で、襖を開けるととても背の高い焔を見上げた。

焔は少し首を傾けて顔を寄せると、手にしていたお盆に乗った饅頭と茶を見せた。


「お籠りのようでしたので気分転換にご一緒にいかがですか」


「ごめんなさい、気分が悪いんじゃないんです。どうぞ」


朔と雪男以外の男を部屋に招き入れたことはなかったが焔には親近感があったので、一応密室にならないようにと庭に通じる障子を開けた。


「雪男が百鬼夜行に出られてお寂しいので?」


「え?ええ…いつも屋敷に居る人ですから少しは」


「では戻って来るまでよろしければ私の旅の話などいかがですか?外の話に興味がおありのようですので」


ふわふわの尻尾がかすかに揺れていて、金の目には気遣いの光がたゆたっていたのを見た朧は澄んだ青空を見上げて微笑んだ。


「聞きたいです」


焔も同じように青空を見上げていて、静かに語り出す。

落ち着いた話ぶりと声に癒されつつ雪男が帰って来るのを待ち、そしてこの先焔と過ごす時間が増えるようになった。