「ちょっと出かけてくる」
普段外出など滅多にしない朔が雪男と銀にそう声をかけて玄関に向かい、察した雪男は刀を朔に手渡して口を開こうとした。
「心配するな。俺が殺されることはない。お前と違ってな」
「そうだけどさ…気をつけて」
不安を払拭してくれようと憎まれ口を叩いてきた朔に何とか笑いかけて見送り、大あくびをしている銀の真っ白な耳をぎゅっと引っ張って注意する。
「主さまの留守を預かってるんだぞ。しっかりしろ」
「おお、さすが身内になろうとする者の気概は違うな」
…間を置いてその意味を考えた雪男は、銀の脇をするりとすり抜けて日陰の多い部屋に向かう。
「意味がわかんね」
「まあいい。俺は百鬼だから傍に居れるがうちの息子はまだ土俵にも立てていない。だがあいつが本気出すとすごいぞ」
この後延々と息子自慢をされるわけだがーー外出した朔は、ぶらりと町を見て歩きながら娘たちの熱視線を一気に集めつつ、十六夜の住む屋敷に着いた。
「母様、遊びに来ました」
「朔ちゃん!?上がって上がってっ」
いつも明るい息吹が庭いじりから顔を上げて喜び、気配を察して奥から出て来た十六夜に頭を下げた。
「父様、いい酒を持って来ました」
「…いい話を持って来たわけじゃないようだな」
聡い十六夜のしかめっ面に苦笑いすると、息吹も交えて居間に移動し、背筋を正して向き合う。
「朧の婿が決まりました」
「……」
「相思相愛です。父様、あなたが今頭の中に浮かんでいる男ですよ」
息吹の顔が輝き、十六夜の目が殺気を帯びて青白く光る。
ことさら家族のことになると理性が利かない十六夜の前で物怖じすることなく朔はその手に無理矢理盃を待たせた。
「まあ酒でも飲んで気分を落ち着かせて下さい。経緯はそれから話します」
「…酒を飲んでも変わらんぞ」
「あの娘は反対されたら駆け落ちすると言っています。それをお望みですか?」
今にも駆けて行って雪男を殺さんとなっている十六夜の膝に手を置いたのは息吹だ。
やんわり微笑んで、強張っている十六夜の手を包み込む。
「ゆっくり話しましょ。朔ちゃん、長居できる?」
「はい」
元より長期戦の覚悟。
朔の息吹とそっくりの笑顔で殺気を削がれた十六夜は、一気に酒を扇ぐと海より深いため息をついた。
普段外出など滅多にしない朔が雪男と銀にそう声をかけて玄関に向かい、察した雪男は刀を朔に手渡して口を開こうとした。
「心配するな。俺が殺されることはない。お前と違ってな」
「そうだけどさ…気をつけて」
不安を払拭してくれようと憎まれ口を叩いてきた朔に何とか笑いかけて見送り、大あくびをしている銀の真っ白な耳をぎゅっと引っ張って注意する。
「主さまの留守を預かってるんだぞ。しっかりしろ」
「おお、さすが身内になろうとする者の気概は違うな」
…間を置いてその意味を考えた雪男は、銀の脇をするりとすり抜けて日陰の多い部屋に向かう。
「意味がわかんね」
「まあいい。俺は百鬼だから傍に居れるがうちの息子はまだ土俵にも立てていない。だがあいつが本気出すとすごいぞ」
この後延々と息子自慢をされるわけだがーー外出した朔は、ぶらりと町を見て歩きながら娘たちの熱視線を一気に集めつつ、十六夜の住む屋敷に着いた。
「母様、遊びに来ました」
「朔ちゃん!?上がって上がってっ」
いつも明るい息吹が庭いじりから顔を上げて喜び、気配を察して奥から出て来た十六夜に頭を下げた。
「父様、いい酒を持って来ました」
「…いい話を持って来たわけじゃないようだな」
聡い十六夜のしかめっ面に苦笑いすると、息吹も交えて居間に移動し、背筋を正して向き合う。
「朧の婿が決まりました」
「……」
「相思相愛です。父様、あなたが今頭の中に浮かんでいる男ですよ」
息吹の顔が輝き、十六夜の目が殺気を帯びて青白く光る。
ことさら家族のことになると理性が利かない十六夜の前で物怖じすることなく朔はその手に無理矢理盃を待たせた。
「まあ酒でも飲んで気分を落ち着かせて下さい。経緯はそれから話します」
「…酒を飲んでも変わらんぞ」
「あの娘は反対されたら駆け落ちすると言っています。それをお望みですか?」
今にも駆けて行って雪男を殺さんとなっている十六夜の膝に手を置いたのは息吹だ。
やんわり微笑んで、強張っている十六夜の手を包み込む。
「ゆっくり話しましょ。朔ちゃん、長居できる?」
「はい」
元より長期戦の覚悟。
朔の息吹とそっくりの笑顔で殺気を削がれた十六夜は、一気に酒を扇ぐと海より深いため息をついた。

