主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

ぐったりしている朧の身体を支え、帯に手をかけて念仏のように何度も唱える。


「平常心…平常心…」


長く生きているので雪女限定といえど女と夜を明かした経験なら何度もある。

裸など飽きるほど見てきたはずなのにーー薄暗い部屋に淡白く光る肌が現れると、勝手に喉が鳴った。

邪心が疼く。
だが朔や十六夜の顔が頭に浮かび、我に帰ると震える指を叱咤しながら手拭いで身体を拭いてやる。


「…きれいだなあ…」


ほぼほぼ全裸の瑞々しくやわらかい肌。
いい香りもしている気がして頭の芯がくらくらしてしまう。


「着替え、着替え…」


清潔な浴衣に着替えさせて床に横たえさせると、少し楽になったのか呼吸が落ち着いた。

ほっと安心して手袋を外し、早鐘のように鳴っている心臓を深呼吸してなだめようとするがーー結構長い間女を抱いていない身なので朧の裸が鮮明に焼き付いてしまっていた。


「…駄目だ、離れてよう…」


「お、師匠様…」


朧がうっすら目を開けて手を伸ばす。


「どうした?」


「手…握って…」


…素手で触れば火傷する。
だが手袋をわざわざ嵌めて手を握るのは朧に失礼だし、また…自分も素手で手を握りたい。

火傷なら治るだろうし少し痛むだけ。


「いいぞ、ほら………え…?」


ーー手を握る。

焼け付くような痛みはなく、朧の手は温かく、柔らかかった。


「え…そんなはずは…ない…」


また朧も雪男の手を長く握れば凍傷になるはずなのに、指先に何ら変化はなく、握り返した。


「あったかい…」


「…これって…」


心が通えば互いの体温は心地いいものになり、死ぬことはない。

それは最早伝説級の代物だったが、実際自身の身に起きている。


「お…朧…」


「……氷雨…」


どくんーー


教えていないはずの真の名を呼ばれて全身が粟立った。


…喜びに震え、涙が頬を伝う。