主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

幽玄町の屋敷に戻るとすでに夕暮れで、縁側で地図を広げて作戦会議をしていた朔と銀と合流した。


「ごめん、遅くなった」


「兄様っ」


謝罪する雪男の脇をすり抜けて朔に抱きつく朧の頰は紅潮し、目は潤んでまくし立てる。


「焔さんが迷ったんだけど泉は見つかって、すごく冷たくて、でも熱くて…えーと…」


「つまり楽しかったってこと?」


大きく頷く朧の頭を撫でて何故か恐縮している雪男をちらりと見た朔は、誰もが見惚れる笑顔を向けた。


「後で報告しろ」


「え…あ…はい…」


朔と戦っても死ぬ。

十六夜と戦ってもーーいや、戦うどころか細切れにされて池の鯉の餌にされるかもしれない…


じっとり冷や汗をかいていると、空から羽音が聞こえた。

天狗が腕に抱えていたのは百鬼の烏頭で、血まみれになって集まっていた仲間をざわつかせた。


「どうした、誰にやられた?!」


「に、西に不穏な噂の連中が居て偵察に行ったら…囲まれちまって…」


朔の目が光る。

じわりと滲む怒気に誰もが戦慄を覚えていると、すぐにそれは仲間内に向けられたものではないと分かった。


「場所は覚えているな?」


「へ、へえ」


「お前はゆっくり養生しろ。俺が仇を取ってやる」


朔は仲間を大切にする。

そこは先代と大きく違うところで、例えそんなに強くない百鬼であっても傷つけられることは許さない性分だ。

だからこそ、愛される。


「お前たち!行くぞ!」


掛け声と共に応じる怒号ともいえる百鬼の応じる声。

留守役の銀が刀を手に雪男の肩を叩いた。


「今夜は荒れる。主に朔が。俺はそれを拝んでくるから頼んだぞ」


「ああ、分かった」


朧が朔に手を振り、静かに怒れる朔率いる百鬼夜行が空を行く。

焔も銀に連れられて居なくなるとーー気付いた。


「待て待て…残ってるのは…」


山姫は病気がちな白雷につきっきり。


「お師匠様、私お風呂入れてきますね。水風呂ですけど」


一緒に入る気満々の朧に襲われる予感。