主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

こんなに長く雪男の身体に触れていたことはなかった。

細いがたくましく割れた腹筋やきれいな鎖骨ーーありとあらゆる場所を指でなぞっていると、雪男がその手を取って止める。


「ちょ…なにやってんだよ」


「触りたいから」


「頼むからちゃんと手拭い巻いてくんない?目のやりどころが…どうしたもんかなあ…」


「どうしたもんかって…私をどうするつもりなんですか?」


「い、いやいや…変な意味じゃなくて…」


しどろもどろ。

好きな男の困り果てた顔にきゅんとした朧は体勢を変えて横向きになった。

そして雪男の顔色を伺うとーー案の定、顔は赤くなっていた。


「ねえ待って、今…俺の膝に乗ってない!?」


「そうですけど何か」


「お前って…そんなぐいぐい来るのか?ちょ…落ち着け俺」


冷たい水の中だからこそきっとこんなに長く触っていられる。

心を通いあわせるにはどうしたらいいのかーーどうしたら、お互い命を落とさずにいられるのか?


「お師匠様…水の中じゃなくて普通に触れるようになるにはどうしたらいいんですか?」


「そうだな…俺も経験ないからよく知らないんだ。心を通わせればっていう話だけど」


「…身体も通い合わせることができるんですか?」


ーー至近距離からまたもや直球勝負の朧の腰におずおずと手を伸ばして引き寄せると、身体を見ないように努めて息をつく。


「そうゆうこと。具体的なことはよく知らない。大体同じ種族で夫婦になるのが常だからさ」


「ふうん…。お師匠様は私を…妻にって…思ってくれます?」


「ま…まあそれは…。ちょっと待て!俺は事を急ぎたくないんだ。お前の気持ちも大切にしたいし、調べなきゃいけないこともある。な、だから少し時間をくれ」


「全部解決したら父様と兄様と戦ってくれます?」


最大の難関はそこだ。

たまらず天を仰ぐと、朧が首に抱きついて手拭い越しとはいえ胸が押し付けられ、雪男の理性を奪いそうになった。


「あの…お嬢さん…誘惑しないでくんない?」


「いやです」


雪男の受難は続く。