主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

焔の方向音痴が発揮されたため、件の泉を発見するのにかなり時間を要した。


「ああ、あれか。最近湧いたんだな、地図書き換えないと」


鬱蒼とした森の上空からわずかに水の反射が見られたので朧車に降りるよう指示してやや開けた場所に降りた。

朔の一族は人に危害を加える妖からすれば邪魔な存在でしかないので狙われることが多い。

雪男と焔は辺りを見回して気を張り巡らせると、きょろきょろしている朧に目をやった。


「私が先を行くので朧様を頼みます」


「方向音痴なのに大丈夫ですか?」


「ははは、迷ったらお助け願います」


軽口を叩くふたりの様子に大人気なく嫉妬しそうになり、雪男は朧が真ん中に来るようにして歩き出す。

途中何度も朧が振り返るのでなるべく目を合わさないようにしていたが、護衛という立場上気を散じるわけにはいかない。


「こら、ちゃんと前見て歩け」


「お師匠様、暑くありませんか?」


「暑いっつーの。冷たい水に飛び込みたい位だ」


「焔さんの見つけた泉に浸かるといいですよ。」


「あーそうだな、そうしようかな」


「…私も一緒に入ろうかな」


ーー聞き間違いかと思い、雪男の足が止まる。

朧の足も止まり、振り返ると首を傾げて先を指す。


「どうしたんですか、行きますよ」


「お、おう」


…あんな夢も見たし聞き間違うほど自分はよほど欲求不満なのかと恥ずかしくなりながら再び歩き出すと、左手に目的の泉が見えた。


「はっ?あいつどこ行った?」


「焔さん迷っちゃったのかな…」


「なんだよどうやったら迷えるんだよ!まあいっか、先に涼んでようぜ」


泉はそんなに大きくはなかったが、底が鮮明に見えるほど澄んでいて魚の姿も見える。

適度に木陰もあり、泉に足だけつけてみると、芯からつんと冷えて気持ちいい。


「お師匠様、入ってていいですよ。私は焔さんを探してきますから」


「あー、じゃあちょっとだけ入ろうかな」


朧が手拭いが入った風呂敷を置いて行き、着物を脱いだ雪男は人の目を気にすることなく全身浸かり、つい声が漏れる。


「やっべーっ、気持ちいいー!」


顔を洗ったり少し潜って魚を見たりしているとーーかさりと草を踏む音がして振り返る。


そこには雪男を驚愕させる光景が待っていた。