主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

早めに引き返して来たので夜が明けるまでまだ時間があり、雪男に言われた通り風呂場へ行って濡れた巫女装束を脱いだ。

身体は冷え切っていたので熱い湯を被ると全身痺れたような幸福感に包まれて、今日起こった出来事を思い返す。

文字通り身を呈して守ってくれた雪男ー戦っている姿を見たのもはじめてだ。

普段は庭の掃除をしたり百鬼たちと歓談したりでのんびりしていたので、鬼気迫る姿をしっかり目に焼き付けておいた。


「私…やっぱり雪男のお嫁さんになりたい」


種族は違うがそれを乗り越えて夫婦になる者も多く居る。

問題は雪男が自分を好きになってくれるか、だが。


…床を敷いてくれると言っていた。

つまり床の傍で自分を待っているかもしれないーー

何も起きないとわかっているのに念入りに身体を擦って髪を洗い、白の浴衣を着て自室へ行くと、雪男が居た。

庭に通じる障子を開けて胡座をかき、雲間から見え隠れする月を見上げていた。


「…戻りました」


「ん、ああ。今日はご苦労さん。怪我がなくて幸いだったな」


「怪我といえばその頬…見せてください。消毒しなきゃ」


「このくらい平気だって。しかしお前、先代から教わってたんだな。びっくりした」


「父様はなんでも言うこと聞いてくれますから」


鼻を鳴らす雪男の傍に座って薬箱から傷に効く上薬を取り出して左頰に走る鋭い傷口に塗り込むと、痛そうに顔をしかめる。


あまり長い間触れていると雪男が火傷してしまうので、素早く塗り込もうと顔を近付けるとーー至近距離で目が合った。


互いに視線を外せず見つめ合う。


時が止まっているように感じていた。