主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

刀を鞘に収めると、しんと静まり返った周囲に気付いた朧は、猫又に乗っている隣の朔を見下ろす。


「兄様…?」


わっと歓声が湧いた。

何が何だか分からずにおどおどしていると、朔が腕を引っ張って猫又に座らせた。


「父様に教わったの?」


「はい。筋が良いから覚えておいた方がいいと…」


「ははっ。母様は反対しただろう?」


「そのことで父様とよく言い合いに…」


朔が噴き出す。

その時の光景が思い浮かんでくすくす笑っていると、雪男が雪月花に息を吹きかけた。

すると儚い音を立てて氷の結晶となり、消えてゆく。

振り返った雪男の顔は何故か少し怒っているようで、ゆっくり歩いて近付いてきたと思ったら開口一番に不満が噴出した。


「今の太刀筋、先代に教わったんだろ」


「そうですけどそれが何か」


「ずるいぞ俺には手合わせすらしてくれなかったのに!娘贔屓!」


「何なら私が手合わせしてあげてもいいですよ」


ついつい捻くれた言い方をしてしまう朧が内心後悔しつつかつ自慢げに胸をそらす。


「女に刀なんか向けられるかっつーの。けどお前かっこよかったぞ。よくやった」


「え…」


「さすが先代譲りっつーか身のこなしが良かった。さすが俺の一番弟子だ」


ぽんぽんと頭を撫でられてかっと顔が赤くなるのを感じると、俯いて蚊の鳴くような声で呟く。


「童扱い…」


「主さま、雨降らしのせいで濡れたし朧が風邪引くと困るから引き返してもいいか?」


「ああ、案件も済んだし引き上げよう。今夜は遠出はなしだ」


雪男の側に百鬼たちが殺到する。

必然的に朔と朧の側なのだが、皆が口々に雪男の戦闘の優美さを褒めていて、朧は内心自分のことのように嬉しくなりながら、猫又のふかふかの尻尾を握って歓声に酔いしれた。