主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

雨降らしの真っ二つになった身体の断面からざわざわと糸を引いて現れると同時にゆっくりとくっつき、口が裂けてにたりと笑う。


それを見た朔は眉を潜めて吐き捨てた。


「闇落ちか」


「お師匠様、闇落ちって何ですか?」


「罪もない人を食い続けると魂が濁って変質するんだ。異質な力に取り込まれて戻れなくなる。主さま、気をつけろよ!」


軽く手を挙げて応えた朔は焔を上空に呼び寄せて対策を打とうとするが、その間にも雨降らしは真っ黒な炎に包まれて膨らんでいく。


そして彼の大きなひとつの目は、真ん中ほどの安全帯で不安そうにしている朧を捉えた。


「美味そうな女が居る・・・」


「!え・・・」


今夜の百鬼夜行には女は朧しか居ない。

朔や焔、雪男が身構えるよりも早く、雨降らしは空を駆けて鋭い爪で朧の前に躍り出た。


「お前を、食う!」


「朧!」


反射的に雪男が身を挺して朧を胸に抱え込むと、真っ白な頬に大きな爪痕ができて血が噴き出す。

痛みに顔をしかめると、朧が滴る血に気付いて顔を上げ、小さな悲鳴を上げた。


「お師匠様!」


「・・・ああ・・・この感じ・・・懐かしいな・・・」


「え・・・?」


「ちょっと離れてろ。危ないから主さまの傍に行け」


雪男が猫又の尻を叩いて朔の元へ行かせる。


なおも頬の傷からは血が止まっていなかったがーー雪男が、笑った。


「お前・・・手加減しないからな」


雨が降り注ぐ。


濡れる髪をかき上げた雪男は美しく、朧の視線を釘付けにしていた。