主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

妖が悪さを行っているとされる地域の上空に着くと、特定の範囲内だけに雨が降り注いでいた。

雷雲が立ち込め、眼下には光が届かずただただ濡れるだけの家屋。


朔は背後を振り返り、一匹の妖を呼び寄せた。


「雷獣、あれを止めることができるか?」


「おやすいご用」


真っ黒な狼に似た大きな妖はひとつ返事をすると、雪男が両手で耳を隠したので朧も真似て耳を隠したと同時に大きな咆哮が轟いた。

大気を震動させた咆哮が止むと雷雲が裂けて夜空が広がり、星が見えた。


「小物が悪さをしおって」


「油断するな。来るぞ」


朔が注意を促して百鬼が気を引き締めると、ひとつの家屋の戸が開いてからんと下駄の音をさせて一匹の妖が出て来た。

頭に藁で編んだ傘を被り、下駄を履いた小柄の妖が顔を上げるとーー大きな目がひとつ、そして・・・口元は真っ赤に濡れていた。


「百鬼夜行か・・・お前が・・・主さまとやらか」


「そうだ。徒に人を食うことは禁じられているはずだ。粛清する」


「飯を食って何が悪い!お前ほどの上級の妖ならともかく、俺のような小物は腹が減る!半妖の分際で偉そうにするな!」


「おい!うちの坊ちゃんに偉そうに話しかけるんじゃねえ!ぶっ殺すぞ!」


古参の百鬼は朔のことを“坊ちゃん”と呼ぶ者が多く、朔は苦笑して手を挙げて野次を止めた。


「確かに俺は半妖だが分際は弁えている。そして己の役割もな」


朔の腰に下がっている天叢雲が戦闘の予感に興奮して鍔鳴りをすると、朧が雪男の袖を引っ張った。


「兄様があぶな・・・」


「これしきじゃ主さまには何もできないって。まあ見てろよ」


天叢雲の鞘から刀身をゆっくり引き抜くと、朔が笑むその妖艶さに妖ーー雨降らしが恐れおののきながらさっと手を挙げて叫んだ。


「雷雲!」


再び湧いた雷雲が土砂降りの雨を降らすと、焔が朔の脇をすり抜け様に声をかけた。


「私にお任せを」


その疾風の如き速さに誰もが目を見張り、雨降らしが真っ二つに裂ける。


それで決着がついたーー誰もがそう思っていた。