主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

雪男にしなだれかかるように抱きしめられた朧は、何が起きたのか理解できずに身を固くしていた。

・・・幼い頃、雪男に大火傷を負わせたことがある。

それを思い出して雪男の胸を押して離れようとしたが、背中に回っている雪男の腕はびくとも動かず、声を上擦らせながら懇願した。


「火傷・・・するから離して下さ・・・」


「直接肌と肌がくっついてるわけじゃないし、平気」


心臓が早鐘のように打ち鳴り、いつもは冷静な朧は胸元からのぞく雪男の胸が目に入って頬が熱くなり、ぎゅっと目を閉じる。

誰かに抱きしめられたことなどない。

強いて言えば兄の朔にはよく抱きつくが、それは親愛あってのことで、よもや想い人の雪男に抱きしめられるなど想像もしていなかったのだ。


雪男はそれきり黙ったままで、嬉しさと恥ずかしさで動けずにいる朧の耳元でふっと笑う気配がした。


「お前、ぎゅってされたことなんかないだろ」


「な・・・っ、あります。もっとすごいことだって・・・」


「ふうん・・・例えばどんなことだよ」


ーー恐らくだが、耳元で囁かれる声は低く、ふんだんに息を吐きかけられている気がした。

完全に腰が砕けて動けないながらも、朧も負けじと顔を上げて反論しようとした時ーー


見たこともないような至近距離で雪男と目が合い、唇は触れ合う寸前で互いに息を止めて見つめ合う。

・・・このまま目を閉じたらどうなるだろうか?

このままま身体を預けたら、どうするだろうか?


「・・・耳が真っ赤」


「・・・え?」


「耳が真っ赤になってる。この嘘つきめ」


腕を解いた雪男が立ち上がり、朧と目を合わさずにそのまま部屋を出て行った。


残された朧はーー力強かった腕の感触と耳に残る雪男の声の余韻にまた身体から力が抜けてそのままごろんと横になり、しばらく起き上がれなかった。