主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

朧の寝顔を見に行く習慣は抜けない。

もう童子ではないので傍から見ると変質者に見えるのでは、と考えつつもやめられず、昼寝をする朧の傍らに座って長い睫毛に見入る。


「お前・・・化けたなあ」


地の顔立ちは先代似だが笑うと息吹似。

あまり自分には笑ってくれないくせにーーとこちらが童子のような駄々をこねたことに気付いてため息をついた雪男は、ぷに、と朧の頬をつついた。

想像以上に柔らかな感触に反射的に手を離すが、その手はまた朧の頬に戻る。

長い間触れていると凍傷になるので手を引っ込めたいのだが、意志とは裏腹に中々手が言うことを聞いてくれない。


「冷たい・・・気持ちいい・・・」


夏本番に近付き、庭で蝉が鳴き、時折激しい通り雨が降るーー季節の移り変わりに朧の額は寝汗をかいていたので、雪男のひんやりした手はとても気持ちが良かった。


「誰・・・お師匠様・・・?」


「ん、おう・・・冷えすぎるといけないしもう離すぞ」


「待って・・・もうちょっと・・・」


目を閉じたままうわごとのように透き通る高い声で雪男の鼓膜を震わせる。

ーー雪男が身体を傾ける。

指先は朧の頬から唇に移り、下唇に触れるとまるで誘うように少し開いた。


・・・このまま唇を唇で塞いでしまいたいーー


自然と沸き起こったその願望にはっと我に返り、身体を引くと手で口元を覆いながら庭に降りて闇雲に歩き回る。


「嘘だろ・・・」


朧に女を感じるなんて。