主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

最近いらいらすることが増えた。

原因は何となく分かっていたのだが、それを認めたくなくて苛立ち、庭の池に住んでいる鯉に投げつけるようにして餌をやる。


「・・・息吹もちょっと離れてた間に・・・きれいになってたな」


数年や十数年は妖にとって瞬きに等しき一瞬のこと。

それだけであんなに激変するのだから、人というものは本当にーー


「母様がなんですか?」


突然背後から話しかけられてびくっと身体が動き、体勢が崩れた雪男が池に落ちそうに前のめりになる。

声をかけた朧が慌てて雪男に駆け寄り、背中から両手を回して抱きついて食い止めた。


「危ないっ」


「お、おお・・・危なかった・・・・・・・・・てかお前・・・」


「?」


身体がぴったり密着。

背中には、何やら恐ろしく柔らかいものがあたっていた。


「む、胸が・・・」


「??」


「ちょ・・・胸があたってるから離せって!」


ーー自身で顔が真っ赤になっていることに気付き、悟られないようにと腕を振り払うと、せっかく朧が防いでくれたのに結局池に落ちてしまい、鯉たちが慌てて離れていく。

全身ずぶ濡れになった雪男が小さく息をついて雫が滴る髪をかき上げると、どこか呆然としたように朧が立ち尽くしていた。


・・・また朧にとっても淡い水色の着物が身体に張り付いて意外と鍛えられたら体つきの雪男に耳が真っ赤になり、両手で耳を隠すと脱兎の如く走り去る。


「なんだよあいつ・・・ああ・・・顔が赤いのばれなくて良かった・・・」


背中には胸の感触が残っている。

こんなの朔に知られたら生きていけないな、と思うとぞっとして、なるべく気配を消して地下の自室で着替えをしていた頃、朧から一切合切顛末を聞いていた朔が爆笑していた。