主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

平安町は人の住む世界で、幽玄橋を行き来できるのは人の場合息吹とその子供たち、そして晴明のみと限られている。


幽玄橋に立つ赤鬼と青鬼に手を振り、碁盤状に整備された綺麗な道を走り、中でも重厚な佇まいの屋敷に着くと、すぐに観音扉が開いて中から式紙の女の童子が出迎えた。


「いらっしゃいませ朧様」


「うん久しぶり。人魚さんも」


川には美しい人魚が居て声をかけると小さく手を振ってそれに応える。

奥には整備されている竹林があり、そこに晴明の母の墓があるので行ってみようかと足を向けようとした時晴明が出てきた。


「やあ、来たね」


「お祖父様、お世話になります」


「なんでも教養をつけたいとか。息吹で十分じゃないかな?」


「母様はお祖父様から全てを教わったと聞きました。だから私も・・・」


庭からじっと見上げてくる朧に幼い頃の息吹を見出した晴明は、縁側に座らせて式紙が用意した団子を差し出すと、にっこり笑った。


「だったら私が厳しいことも知っているね?」


「はい。父様と母様にはお祖父様の所に通う許可を頂きました。どうかよろしくお願いします」


ーー少し見ない間に垢抜けた朧の頭を撫でながら、晴明は喉を鳴らして笑みをかみ殺す。


「十六夜が許したのか。愛娘が惚れた男のために学ぶことを許すとはねえ。あ奴の牙は娘の前では折れていると見える」


「お祖父様・・・駄目ですか?」


「とんでもない、孫のためならお祖父様は何でもするとも。よろしい、これから毎日ここに通いなさい」


佇まいから教養まで全てを備えてあの男の前に立つーーそれまでは会わない。


数年後、ある噂が立つようになる。


“安倍晴明の屋敷に美しい娘が居る”と。