主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

「じゃあ兄様、お世話になりました」


「うん、俺も時々顔を見に遊びに行くよ」


別れはあまりにも呆気なかった。

山姫が戻ってきて数日後、朧は身の回りを整理し始めて帰る準備を進め、その間雪男は何も口を挟めずその様子を見守っていた。

朧から話しかけてくることもなく、だからこそ年上の矜持としてこちらから話しかけず、その日はやってきた。


ーー梁に寄りかかって朧が出て行く姿をただただ見ていると、玄関に向かう前急に朧が振り返り、じっと雪男を見つめる。


「お師匠様」


「お、おう」


「お世話になりました」


「ああ、よく頑張った。また遊びに来いよ」


応えてくれると思っていたが、朧は言及せずにじっと雪男を見つめる。


「文を書いてもいいですか」


「もちろん。てか遊びに来れば・・・」


「お祖父様の牛車が待ってるからこれで失礼します」


ぺこりと頭を下げた朧が玄関に向かう。

朔が送り出し、姿が見えなくなるとその場に座った雪男は、腕組みをして息をつく。


「寂しくなるなあ」


また送り出された朧は、牛車に乗り込む前に背の高い朔に背伸びをして耳元でこそこそっと囁いた。


「もし雪男に色目を使う人が現れたら・・・」


「うん、俺が全力で阻止してやるから心配するな」


・・・なんだかそれがどんな方法だか怖くて聞けなかった朧は、朔と別れるとそのまま幽玄橋を渡って平安町へ出ると、晴明邸へ向かった。