主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

「・・・戻るとは?」


朧の意外なお願いに十六夜は腕組みをして小さく唸った。

息吹は反面顔を輝かせる。


「はい。山姫に赤ちゃんが生まれたら戻ってもいいですか」


「それは構わないが・・・どうした?」


正座した膝に上でぎゅうっと拳を握りしめている朧の顔には何かしらの覚悟の色がある。

自分で家を出ると決めて出て行った末娘が一年と経たずにそう決めたには理由があるはずだ。


「・・・朔には言ったのか?」


「まだです。でも父様・・・見て」


すくっと立ち上がった朧を見上げる。

少し離れていただけなのに大人びて、手のかかった駄々っ子とは思えない。


「大きくなったでしょ?でも・・・気付いてくれないんです。近くにいると、目に入れてもらえない。それが悔しくて・・・私、もっと大きくなります。でもきっとこれからも気付いてもらえない・・・」


ーー恋をした娘の心に大きく共感した息吹は、朧の手を取って座らせた。


「まるで昔の私を見てるみたい」


「母様を?」


「そう。私も主さ・・・父様には小さい頃まるで相手にしてもらえなくてね。少し離れてたらやっと気付いてもらえたの。朧ちゃん・・・近くに居すぎると良いこともあるけど、そうでないこともある。・・・帰って来る?」


「・・・うん。いいの?」


「もちろん。少し離れて、女性として見てもらえるように母様と頑張ろ。ね、十六夜さん・・・いいよね?」


「・・・・・・構わんが、相手は認めん」


ぷいっと背を向けた十六夜の背中を笑いながら小さく叩いた息吹は、どうしたらいいかわからずにまごまごしている朧の頭を撫でた。


「大丈夫。母様に任せて」