息吹の気配はとうの昔に感じていた。
自分を避けていたのも、感じていた。
だが天真爛漫の息吹がそうまでして朧に会いに来たことは責められない。
「息吹来てたみたいだけどどうした?」
「別に」
先代が乗り移ったんじゃないかと目を擦るほどの“別に”に口がへの字になった雪男は、廊下を雑巾掛けしている朧の後ろを付いて回る。
「何の用事だったんだ?」
「お師匠様には何の関係もないことでした」
「棘がある言い方すんじゃん。お前さ、畏まらなくていいんだから前みたくなれよ」
朧の手が止まった。
その横顔に団扇を扇いでいた雪男の手も止まる。
朧の小さな声は蝉時雨の中にかき消されそうになりながらも雪男の耳に届いた。
「私だって好きでこうしてるんじゃない」
「え?じゃあなんで・・・」
「・・・いいんです。お師匠様には何の関係もないんだから」
ーー本当は大有りだったのだが、つれない朧の態度に雪男は年甲斐もなくむっとして冷たい手で朧の頬を軽く引っ張った。
「俺は前の方が好きだったぞ」
「じゃあ今の私も好きになって下さい」
好きって言って。
あの人よりも好きだって、言って。
自分を避けていたのも、感じていた。
だが天真爛漫の息吹がそうまでして朧に会いに来たことは責められない。
「息吹来てたみたいだけどどうした?」
「別に」
先代が乗り移ったんじゃないかと目を擦るほどの“別に”に口がへの字になった雪男は、廊下を雑巾掛けしている朧の後ろを付いて回る。
「何の用事だったんだ?」
「お師匠様には何の関係もないことでした」
「棘がある言い方すんじゃん。お前さ、畏まらなくていいんだから前みたくなれよ」
朧の手が止まった。
その横顔に団扇を扇いでいた雪男の手も止まる。
朧の小さな声は蝉時雨の中にかき消されそうになりながらも雪男の耳に届いた。
「私だって好きでこうしてるんじゃない」
「え?じゃあなんで・・・」
「・・・いいんです。お師匠様には何の関係もないんだから」
ーー本当は大有りだったのだが、つれない朧の態度に雪男は年甲斐もなくむっとして冷たい手で朧の頬を軽く引っ張った。
「俺は前の方が好きだったぞ」
「じゃあ今の私も好きになって下さい」
好きって言って。
あの人よりも好きだって、言って。

