主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

その年は猛暑だった。

雪男は夏に滅法弱く、日差しの下に出る時は番傘を欠かさない。

山姫の腹はみるみる大きくなり、動くとつらそうなので結局家事はほとんど朧が担当することとなった。


『おい』


花に水をやり、箒で掃いていると朧に低い声で話しかける声が聞こえた。

それは朔の部屋からで、何人も入室することは禁じられていたのだが、朧は自由に出入りしていたので朔を起こさないようにそっと障子を開ける。


『暇だ。俺と遊べ』


「俺で遊べ、の間違いでしょ』


朔の枕元に置かれていた刀ーー天叢雲だ。

長きに渡って蔵に封印されていた妖刀だったが、先代から解放されて今は朔が所有していた。


『違う。お前と遊んでやると言ってるんだ』


「いいけど兄様の許可が・・・」


「天叢雲・・・朧を傷つけるなよ」


枕に顔を突っ伏して寝ていた朔が注意すると、天叢雲が鍔鳴りをして答え、朧は慣れた手付きで鞘を取って庭に出た。

実は遊びをせがまれたことはこれが初めてではなく、鞘から刀身を抜いて強い日差しに曝す。


『惚れた男はどうした。溶けでもしたか?』


「暑いから氷室に籠もってるの。・・・雪男の前で惚れたとか晴れたとか言わないでよね」


『手玉に取れるような上物になれるといいなあ。どうだ、俺に一滴血をくれんか。さすれば手伝ってやれなくもないぞ』


「何を?」


「天叢雲・・・」


朔の部屋から殺気が放たれると天叢雲は沈黙してしまい、朧は好き勝手にぶんぶん振るって踊るようにくるくる回る。

憂さ晴らしには最適で、また天叢雲も朧を気に入っていた。

きんきんに身体を冷やして氷室から出てきた雪男は、危険極まりない妖刀を振り回す朧をはらはらしながら見守っていた。