息吹は心底困った顔をしていたが、雪男は手の痛みも気にせずに迫り続ける。
柔らかな唇・・・触れたことはないが、唇で触れ合うことができたらどんなに幸せなことだろうか。
「雪ちゃん・・・朧ちゃんが起きちゃうし、私は主さま・・・じゃなかった。十六夜さんの妻なの。悪いけど・・・」
「あんな朴念仁のどこがいいんだよ。苦労ばっかさせられてさ、そろそろ目を覚ませって」
「苦労なんかしてないよ。私、とても幸せだから・・・」
「・・・じゃあ今日のところは氷雨って呼んでくれたら諦める」
・・・困ったことに、息吹が困り果てる顔も大好きな雪男がわくわく待っていると、息吹は握られた手をそっと外して小声で囁いた。
「氷雨・・・」
「・・・うん・・・」
雷に打たれたように身体中が痺れる。
甘く官能的な酩酊感に顔が真っ赤になった雪男は、片手で顔を覆って隠すと、息吹の肩を押して遠ざけた。
「行って。これ以上一緒にいると自信ないから」
「う、うん。朔ちゃんと話してくるね」
息吹が部屋を出ると、雪男は顔を覆ったままごろんと横になってじっと喜びを噛み締める。
真の名を愛しい者に呼ばれた時こそ、妖は喜びを感じる。
逆に、どうとも思っていない者に名を呼ばれると、殺してしまうこともあるのだ。
「はあ・・・頭冷やしてこよ・・・」
雪男が地下の氷室に戻ると、奥の間にぼそりと小さな呟きが漏れた。
「・・・氷雨って言うんだ・・・」
その名を呼んでみたい。
今はまだ無理。
いつかは、きっと。
柔らかな唇・・・触れたことはないが、唇で触れ合うことができたらどんなに幸せなことだろうか。
「雪ちゃん・・・朧ちゃんが起きちゃうし、私は主さま・・・じゃなかった。十六夜さんの妻なの。悪いけど・・・」
「あんな朴念仁のどこがいいんだよ。苦労ばっかさせられてさ、そろそろ目を覚ませって」
「苦労なんかしてないよ。私、とても幸せだから・・・」
「・・・じゃあ今日のところは氷雨って呼んでくれたら諦める」
・・・困ったことに、息吹が困り果てる顔も大好きな雪男がわくわく待っていると、息吹は握られた手をそっと外して小声で囁いた。
「氷雨・・・」
「・・・うん・・・」
雷に打たれたように身体中が痺れる。
甘く官能的な酩酊感に顔が真っ赤になった雪男は、片手で顔を覆って隠すと、息吹の肩を押して遠ざけた。
「行って。これ以上一緒にいると自信ないから」
「う、うん。朔ちゃんと話してくるね」
息吹が部屋を出ると、雪男は顔を覆ったままごろんと横になってじっと喜びを噛み締める。
真の名を愛しい者に呼ばれた時こそ、妖は喜びを感じる。
逆に、どうとも思っていない者に名を呼ばれると、殺してしまうこともあるのだ。
「はあ・・・頭冷やしてこよ・・・」
雪男が地下の氷室に戻ると、奥の間にぼそりと小さな呟きが漏れた。
「・・・氷雨って言うんだ・・・」
その名を呼んでみたい。
今はまだ無理。
いつかは、きっと。

