「朧」


「あ、兄様・・・今日は遊んでくれる?」


朧は兄弟の中でもとりわけ表情に乏しかったが、兄の朔と話すときはよく表情が変わった。

日頃本の虫な朔はこの末妹に弱く、母の息吹と父の十六夜の良い所を十二分に引き継ぎ、笑うと息吹のように華やいで女の妖たちを魅了して止まない。

ひとりで貝合わせをして遊んでいた朧の隣に座った朔は、朧の口の中に金平糖を入れてやると、顔を覗き込む。


「最近雪男を質問責めにしてるって聞いた。どうした?」


「別に。雪男がなんか隠してるから聞いてみたいだけ」


「皆、誰しも秘密くらいあるんだ。無理に聞き出すものじゃないよ」


「兄様にも秘密があるの?」


「うん。聞きたい?」


朧の興味を引くことに成功した朔は、朧の脇を抱えて自分の膝に乗せてやると、こそりと耳元で囁いた。


「お前を嫁に出さずになるべく長く手元に置くにはどうすればいいかいつも悩んでることかな」


歳が結構離れていることで朔は朧を溺愛しており、『主さまは末の妹を手放すことができるのか』と百鬼たちの間で密かに賭けの対象になっているほど。

また朔が兄弟たちの中でも自分のことを一番可愛っていることを知っているので、お世辞と受け取らずに真面目に頷いた。


「朧は兄様みたいな方に嫁ぎたい」


「じゃあ行き遅れ確定じゃないか。お前に秘密を打ち明けて良かった」


時に可愛らしく、時に刃物のような切れ味を見せる朔に参っている者は男女関わらず多いが、朧は自分こそが一番この兄を独り占めしている、と優越感に浸りながら、細くもたくましい朔の身体に抱きついた。