「ふむ、ここまではついてきているな?」


「・・・話が長すぎる」


「まだ序盤だが何か?」


晴明の昔話が始まったのは、息吹と夫婦になると晴明に話してからすぐのことだった。


いかに自分が苦労していたか、いかに息吹を大切にしていたか、訥々と朝から晩まで語られる羽目になり、しかもまだ序盤だという。


・・・晴明から話があると言われてから嫌な予感しかしていなかった主さまは、しらふの晴明とは違ってこれを見越して晴明宅に酒を持ち込んでいた。


「よもや私の話を酒を飲みながら聞き流すのではあるまいな」


「しらふでお前の長話を聞けるものか」


「私の話を聞き流すと・・・祟るぞ」


あながちそれは冗談でもなさそうな声色と表情だったので、手にしていた盃を台に置いた主さまは、夫婦になる前から舅に苦労するのは確実だな、と覚悟を決めて、わざとらしくため息をつく。


「・・・俺が気に入らんようだな」


「安心しろ、誰が婿に来たとしても私はいびる」


「・・・・・・」


「誰が好き好んで百鬼夜行の大将の元になど嫁がせたがると思うんだ?苦労するに決まっている。私が反対しなかったとでも思っていたのか?」


矢継ぎ早に早口でまくし立てる様は晴明にしては珍しく、余裕のない感じは主さまをざわざわさせて思わず顔を覗き込む。


「・・・熱でもあるのか?腹でも痛いのか?」


「何故私を病にしたがるのだ?至って健康体だが」


「待ってくれ、お前の話はもう腹一杯だ」


「そんな冗談は後にしろ。いかに私が気を揉んでいるのかそなたは全く理解しておらぬ」


ーー幼い頃から利発で手を焼かせたことのない晴明が駄々をこねるように主さまの肩を揺らしては話を聞いてくれ、とせがむ。

これは晴明が満足するまで相手をしないと本気で祟られるな、と全てを諦めた主さまは、指で頬をかいて息をついた。


「わかったわかった。聞いてやるから続きを話せ」


途中休憩を終えた主さまは、舅のいびりに何としても立ち向かってやるといわんばかりに性根を据えて腕を組んだ。