「ねえ父様。十六夜さんってどんな人?」
息吹の口からは、最近主さまのことばかりが話題に乗るようになった。
…それはもちろん気に食わない。
主さまは約束通り、姿を消して息吹の警護をしている。
だが、息吹は十六夜という名の寡黙な妖に興味があるらしく、始終問うてくる。
そう問うてきた息吹のすぐ隣には、姿を消している主さまが。
むっつりと黙り込んで腕を組み、梁に身体を預けながら、一瞬身を震わせた。
ーー晴明はそれがどのような類の身震いなのか、知っていた。
「そうだねえ、女子受けはするが、優しさや慈悲は持ち合わせていない。危険な妖だから、声をかけてはいけないよ」
「はい。気を付けます」
その返事に、これからも話しかけるつもりなのだな、と思いつつ、晴明は息吹を退がらせる。
「…というわけだ」
「……どういうわけだ」
「話しかけられて返事はせぬように、と言っている。それより…十六夜」
目線だけよこしてきた主さまを煽り見た晴明は、挑発を開始した。
「先程、真の名を呼ばれて身震いしていたな?」
「…」
狼狽したように彷徨う視線。
…この男は冷静に見えるようで、馬鹿正直な面がある。
晴明は胡座をかいて首を鳴らすと、ぼそりと呟いた。
「嬉しさで身震いか。余程、息吹に惚れていると見える」
「違うと言っているだろうが。お前、大概しつこいぞ」
「私の見当違いであれば、それで良い。ただし…息吹にどうこうするのであれば、死を賜らせてやろう」
決闘宣言。
親代わりだった主さまもさすがに堪えたのか、驚きを隠せないまま晴明の前に座った。
「珍しく頭に血が上っているな。何故俺を呼んだ。何故憤るとわかりながら、俺を頼った?」
「そなたが最後の頼みの綱だったのだ。ただそれだけのこと」
涼しい顔を装ってはいたが、きっと主さまはお見通しだろう。
しばらく見つめ合った後、主さまは腰を上げて朝日を見上げた。
「…それほどに息吹を想っているのか」
「種類は違うが、思ってはいる。あの子に悲しい思いはさせたくない。あの子には笑っていてほしい。そう思うのが親心だろう」
本音を吐露する晴明を、主さまは背中で感じながら庭に降りた。
「…あの盆暗からは必ず守ってやる。心配するな」
「言わせてもらうが、そなたもなかなかの盆暗なのだ。頼らせてはもらうが、それ以上盆暗にはなってくれるな」
盆暗と連呼された主さまが鼻を鳴らす。
…盆暗である自覚はあったようだと晴明は満足しながら、巻物に視線を落とした。
息吹の口からは、最近主さまのことばかりが話題に乗るようになった。
…それはもちろん気に食わない。
主さまは約束通り、姿を消して息吹の警護をしている。
だが、息吹は十六夜という名の寡黙な妖に興味があるらしく、始終問うてくる。
そう問うてきた息吹のすぐ隣には、姿を消している主さまが。
むっつりと黙り込んで腕を組み、梁に身体を預けながら、一瞬身を震わせた。
ーー晴明はそれがどのような類の身震いなのか、知っていた。
「そうだねえ、女子受けはするが、優しさや慈悲は持ち合わせていない。危険な妖だから、声をかけてはいけないよ」
「はい。気を付けます」
その返事に、これからも話しかけるつもりなのだな、と思いつつ、晴明は息吹を退がらせる。
「…というわけだ」
「……どういうわけだ」
「話しかけられて返事はせぬように、と言っている。それより…十六夜」
目線だけよこしてきた主さまを煽り見た晴明は、挑発を開始した。
「先程、真の名を呼ばれて身震いしていたな?」
「…」
狼狽したように彷徨う視線。
…この男は冷静に見えるようで、馬鹿正直な面がある。
晴明は胡座をかいて首を鳴らすと、ぼそりと呟いた。
「嬉しさで身震いか。余程、息吹に惚れていると見える」
「違うと言っているだろうが。お前、大概しつこいぞ」
「私の見当違いであれば、それで良い。ただし…息吹にどうこうするのであれば、死を賜らせてやろう」
決闘宣言。
親代わりだった主さまもさすがに堪えたのか、驚きを隠せないまま晴明の前に座った。
「珍しく頭に血が上っているな。何故俺を呼んだ。何故憤るとわかりながら、俺を頼った?」
「そなたが最後の頼みの綱だったのだ。ただそれだけのこと」
涼しい顔を装ってはいたが、きっと主さまはお見通しだろう。
しばらく見つめ合った後、主さまは腰を上げて朝日を見上げた。
「…それほどに息吹を想っているのか」
「種類は違うが、思ってはいる。あの子に悲しい思いはさせたくない。あの子には笑っていてほしい。そう思うのが親心だろう」
本音を吐露する晴明を、主さまは背中で感じながら庭に降りた。
「…あの盆暗からは必ず守ってやる。心配するな」
「言わせてもらうが、そなたもなかなかの盆暗なのだ。頼らせてはもらうが、それ以上盆暗にはなってくれるな」
盆暗と連呼された主さまが鼻を鳴らす。
…盆暗である自覚はあったようだと晴明は満足しながら、巻物に視線を落とした。

