主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

妖を統べる幽玄町の主は、代替わりする。


名を十六夜という現当主の治世は長く、だが未だ妻を迎えていない。

女遊びはするのだが、妻も持たず、子も持たない。

本来ならば、務めを果たすために何人もの妻を持っていてもおかしくないのだがーー


「そなたはいつになったら身を固めるつもりなのだ?」


「…俺の心配より我が身の心配をしろ」


「そなたには役目があるだろう。先代は早くして妻を娶ったではないか」


百鬼夜行が終わって幽玄町にも戻らずにやってきた主さまを労う意味合いも兼ねて、晴明は主さまと酒を交わしていた。

あからさまに不機嫌な主さまが最も嫌う話題を振ってみせた晴明は、にやにやしながらさらに追求を続けた。


「先代は暗君ではなかったが、そなたが妻を持たねば暗君と呼ばれるぞ。己の務めを忘れたのかな?」


「然るべき時が来たら妻は迎える。…俺の代で終わらせることはできない」


鬼八の封印ーー

それが主さまの家の務めであり、そして百鬼夜行の務め。


酒が進まなくなった主さまは、ごろんと寝転がって晴明に背中を向けた。


「お前…まさか息吹を妻にするために連れ去ったんじゃないだろうな」


「私にそのような趣味もなければ、その言葉はそのままそなたに返そうか」


「……俺が人に惚れることなどない」


「そうだな、生きる速さが違う故、互いが苦しい目に遭う。特に残される妖側は、永遠とも言うべき時を悲しみに暮れなければならない」


「…」


深い沈黙。

現実を直視してもらって息吹のことを諦めさせる晴明の作戦だったが、主さまは息吹に惚れていることを認めたくないのか、意に介さずぶっきらぼうな声を出す。


「有り得ない論議をするつもりはない。少し寝させろ」


「息吹に見えぬように頼むぞ」


ーーこの偏屈が。

内心どうしてもそう罵ってしまう晴明だったが、もしふたりが夫婦になれば、悲しい別離が待っているのだ。


「…有り得ぬ論議は私もせぬよ。だから今論議しているのだ」


「……」


また深い沈黙。

これは肯定の意味と捉えた晴明は、さらに深いため息をついた。