主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

眼前に居る鬼に隙を見せれば、襲われてしまうかもしれないーー


静かではあるが、狂気に満ちた眼差しは、空気をも凍り付かせたように冷えていた。


「…息吹はどこだ」


「私の屋敷に居るとも。まさか、ここへ連れてきたと思ったのか?食わせるために?」


「…あれは…食い物じゃない」


「だが以前は食い物だっただろう。だから私が連れ出したのだ。違うか?」


ぎり、と歯ぎしりが聞こえた気がした。

晴明とてわざわざ諍いを起こすためにここへ来たわけではない。

一体息吹に会わせたならば、どんな反応をするのかと窺い、そして確信した。


息吹はもう食い物ではなく、“女”に見えているのだろう、と。

…だがこの鬼は手癖が悪い。

到底息吹に見合う良識かつ健全な考えを持つ男ではなく、ましてやその対極に居る男だ。


「お前が目を離した隙に危ない目に遭ったぞ。俺が居なかったらどうしたつもりだ」


「そなたがついているとわかっていたからこそ目を離した。…十六夜」


十六夜とは、主さまの真実の名。

もし不適当な者がその名を口にすれば、たちまち命を奪われるであろう危険な名前だ。

だが主さまはじっと黙ってこちらを見ていた。


「息吹が帝に入内するかもしれない。ほぼ確定だ」


「な、んだと…」


「それは私にとってとてもまずいことだ。十六夜、そなたにとってもだろう」


「……」


「今まで申し訳なかったと思ってはいるが、そなたに力になってもらいたいのだ。…母の仇に嫁がせるわけにはいかぬ」


「…葛の葉か。だからあれほど人になど嫁ぐなの言ったのに聞き入れなかった。結果、死んだ」


「結果論を論じている場合ではない。そなたの協力なくば、私も早急に策を講じなければ」


冷静さにおいては引けを取らない晴明の焦燥に、主さまは危機を感じ取った。


息吹に会えたと思ったのに、また会えなくなるーー

だが協力すれば、また会えるのだ。


「…どうするつもりだ」


「それは協力してもらえるならば話す。聞くだけでは駄目だ。必ず協力してもらう」


断固とした強い姿勢に、主さまはふっと笑った。


「それが物を頼む態度か?」


「育ての親に似たのかねえ」


「…」


晴明の、粘り勝ち。