息吹の外出にはひと悶着があった。
少し目を離した隙に危ない目に遭い、だがそれは主さまに救われて事無きを得たのだがーー
晴明は主さまに借りを作ることが好きではない。
借りを作ってしまえば返さなければいけないし、袂を分かったつもりでいたので、より癪に触る。
「おい晴明!どの面下げて来やがった!」
「そう騒ぐな、赤鬼。そなたらの主と話をしたいだけだよ」
平安町と幽玄橋を結ぶ橋には巨大な体躯の赤鬼と青鬼が立っている。
その二匹に凄まれながらもひらりとやりすごした晴明は、式神の引く牛車で主さまの屋敷の前に乗り付けた。
「さて…骨が折れるぞ」
初っ端から喧嘩腰で向かって来るだろう。
だからこそそれなりの準備をしてきたし、襲われればやり返すつもりでもいる。
「晴明…!あんた…っ!」
まず飛び出て来たのはーー赤い髪が美しい気の強そうな女。
長年、恋い焦がれている山姫という妖だ。
晴明は仁王立ちして髪を逆立てている山姫の肩にそっと手を置いて、囁くように言った。
「突然、息吹を連れ出してすまなかったね。今日はその話をしに来た」
「息吹の話だと…?」
次に現れたのは、真っ白な肌に青い髪の白皙の美しい男、雪男。
ふたりとも主さまの両腕に等しく、また息吹を可愛がっていたので、恨まれ方が尋常ではない。
「…お前たち、やめろ。そいつを連れて来い」
いつも閉められている部屋から押し殺したような低い声。
晴明は背中に汗が伝うのを感じながら、飄々として見せた。
「十六夜…息吹は美しかっただろう?」
「……」
返事はない。
あちこちから百鬼の殺気を帯びた視線を浴びながら、晴明は主さまの部屋に通じる障子に手をかけてゆっくり開いた。
そこに座すのは、肩半ばまである長い黒髪を顔の横にゆったりと束ねて唇を真一文字に結んでいる主さま。
妖の頂点に立ち、君臨する王。
「まず感謝を述べたい。昨日は息吹を助けてもらってありがとう」
「……何をしに来た。何故息吹と会わせた…」
「会いたくはなかったのか?私のお節介だったようだねえ」
「…」
主さまは口数が極端に少ない。
さらに人付き合いも殆どせず、本音を明かすこともほぼない。
付き合いの長い晴明はそれを熟知し、今対峙している。
部屋は静寂に満たされた。
少し目を離した隙に危ない目に遭い、だがそれは主さまに救われて事無きを得たのだがーー
晴明は主さまに借りを作ることが好きではない。
借りを作ってしまえば返さなければいけないし、袂を分かったつもりでいたので、より癪に触る。
「おい晴明!どの面下げて来やがった!」
「そう騒ぐな、赤鬼。そなたらの主と話をしたいだけだよ」
平安町と幽玄橋を結ぶ橋には巨大な体躯の赤鬼と青鬼が立っている。
その二匹に凄まれながらもひらりとやりすごした晴明は、式神の引く牛車で主さまの屋敷の前に乗り付けた。
「さて…骨が折れるぞ」
初っ端から喧嘩腰で向かって来るだろう。
だからこそそれなりの準備をしてきたし、襲われればやり返すつもりでもいる。
「晴明…!あんた…っ!」
まず飛び出て来たのはーー赤い髪が美しい気の強そうな女。
長年、恋い焦がれている山姫という妖だ。
晴明は仁王立ちして髪を逆立てている山姫の肩にそっと手を置いて、囁くように言った。
「突然、息吹を連れ出してすまなかったね。今日はその話をしに来た」
「息吹の話だと…?」
次に現れたのは、真っ白な肌に青い髪の白皙の美しい男、雪男。
ふたりとも主さまの両腕に等しく、また息吹を可愛がっていたので、恨まれ方が尋常ではない。
「…お前たち、やめろ。そいつを連れて来い」
いつも閉められている部屋から押し殺したような低い声。
晴明は背中に汗が伝うのを感じながら、飄々として見せた。
「十六夜…息吹は美しかっただろう?」
「……」
返事はない。
あちこちから百鬼の殺気を帯びた視線を浴びながら、晴明は主さまの部屋に通じる障子に手をかけてゆっくり開いた。
そこに座すのは、肩半ばまである長い黒髪を顔の横にゆったりと束ねて唇を真一文字に結んでいる主さま。
妖の頂点に立ち、君臨する王。
「まず感謝を述べたい。昨日は息吹を助けてもらってありがとう」
「……何をしに来た。何故息吹と会わせた…」
「会いたくはなかったのか?私のお節介だったようだねえ」
「…」
主さまは口数が極端に少ない。
さらに人付き合いも殆どせず、本音を明かすこともほぼない。
付き合いの長い晴明はそれを熟知し、今対峙している。
部屋は静寂に満たされた。

