主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

「そなたの養女を連れて参れ。たいそう美しいそうだな」


特別相談役として、帝とふたりきりの時間を持つことができるほどに計画の成就が差し迫っていた時ーー

とうとう、この盆暗が息吹に興味を持ってしまった。


「…殿上人の帝とお会いすることなどできませぬ。世間知らずでお恥ずかしい限りの子なので」


「そなたの屋敷に出入りしていた者たちから噂は聞いておった。これは勅命である」


「…」


帝に気に入られてしまえば、側室として内裏の奥深くの暮らし。

しかも帝には数多くの側室がすでにあり、仇の帝に息吹をくれてやるつもりもない。


「返事はせぬのか」


「……勅命ならば」


鈍い眼光。

晴明が不服であることをその姿勢が如実に語り、帝は思わず御簾越しに軽くのけぞった。


「不服なのか?」


「会うだけならば、と言っておきましょう」


「何もすぐ側室にとは申しておらんだろうが。連れて参れと頼んだだけだぞ」


ーー気に入られるのは明白。

すでに各名家の貴族たちから恋文をもらっている息吹の存在は、屋敷から出さずとも噂の的になっていた。

…故に、帝は安部晴明の養女を手に入れようと躍起になっているのだろう。


これは早急に手を打たなければならない。

斯くなる上は、呪詛を以ってしてーー


「…娘に話してみましょう。では」


…実はここから屋敷へ戻るまでの間、晴明は記憶が覚束無いほど動転していた。


息吹をあの盆暗の嫁にさせるつもりはない。

そして悲願となっている母の敵討ちも忘れてはいない。


孫の手も借りたいというほどの窮地。


「呪詛か、はたまた…」


最も頼りになる者はーー幽玄町に居る。

だが最も手を借りたくはない相手でもある。


「だが一刻の猶予も残されてはいない…。仕方ないのか」


揺れる牛車の中で決断した。


万が一、あの男が息吹を求めぬように、道長にはひとつ芝居を打ってもらって、息吹に惚れていてふたりはいずれ夫婦に…という設定も持ちかけなくてはならない。

ーー覚悟を、決めた。