主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

晴明の心配をよそに、息吹はまっすぐで大らかに育った。


ただ養われるのは嫌だと言って、勧んで家事や掃除をしていたが、それは特に必要ないのだが、とも思っていた。


息吹は年頃になれば、名家に嫁がせて何不自由なく幸せになってもらいたい。

晴明の願いはただそれだけで、それ以上は望んでいない。


ただーー主さまたちからの文が、途絶えた。

晴明はそれを不気味な兆しとしてとらえ、星を読み、占をしては常に警戒を怠らない。


「父様、これ重たいから着たくないな…」


「いやいや、よく似合っているとも。それが貴族の礼装なんだよ。時々は着飾って目の保養になっておくれ」


そう言われると息吹も嫌とは言えず、年を経るうちに、みるみる綺麗な顔立ちになってきた。


父母が美しかったのか、審美眼の鋭い晴明から見ても贔屓目なしで可愛らしいと思う。

もうそろそろ年頃を迎えて、嫁に出す日がやって来る。

もちろん婿側にも厳しい条件を課すが、それ位乗り切ってもらわなくては困る。


「うちの者にも年頃の者が居るが、どうだ?」


「藤原家か。名家すぎて窮屈だな」


「そういえば妙な噂を内裏で聞いたぞ。帝がお前の養女…つまり息吹に興味を持っているとか」


それまで巻物に目を落としていた晴明が顔を上げた。

その表情は不快に満ちていて、道長を縮こまらせた。


「帝が?」


「あ、ああ。だがあの盆暗に息吹は嫁にやれんだろう?俺がお前の養女は醜女だと吹聴して回ろうか」


「…いや、放っておけ。しかしよくもおめおめと私に関わろうとするものだな」


帝…果てはその一族に母を殺された恨みがあり、父もまた果てた。

その亡骸は宝物庫に収められてあり、晴明は母を取り返す計画を長い間立てて待ち続けていたのだ。


「だから盆暗なのだろうが。宝物庫は守衛に守られて俺でも近付けん。だが俺より長生きなお前のことだから、やってのけるだろうな!」


道長は順調に出世街道を駆け上がり、晴明は時が止まったまま。

また息吹も成長し、今となってはいつでも嫁に出せそうな歳になる。


「…私だけが時が止まっているのを痛感するよ」


「それの何が悪い?お前は人のために今後もずっと手を貸し続けていくのだろう。せめて俺が全うするまでにはお前の母を取り戻そうぞ」


「ああ、よろしく頼む」


ーーこの時はまだ、息吹がそれを成就させるとは思いもしなかった晴明だった。