主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

道長は、自分には教えることのできない大らかさがある。


晴明の短所は、一から十まできっちり教えて完璧を求めることだ。

失敗を許さないのは、自分が失敗をしないから。
息吹はまだ幼く、妥協したとしても、求めていることを息吹ができなかった時、自分はどう思うのだろうか、と時々考えてしまう。


「おい、その辛気臭い顔はやめろ。酒がまずくなる」


「ああすまぬ、少々考え事をしていた」


「月見酒なのだぞ、もっと楽しくせんか!」


「いや、私があの子の教育をと考えていたのだが…厳しくしそうで悩んでいる」


晴明が弱音を吐くことは滅多になく、道長は目をまん丸にして掲げていた盃を下ろす。


「弱音など珍しいな。まあだがお前が躾ければ、堅物にはなりそうだな」


「私はあの子に大らかに育ってほしいのだ。私は関わらぬ方が…」


「いや、お前が躾けてやれ。あの子の天真爛漫さは生来よりのものだ。時々目を離して自由な
時間を与えてやれ。そして俺もその躾けとやらに関わろうではないか!」


…何やら嫌な予感。

思わず表情が歪んだ晴明の盃になみなみと酒を注いだ道長は、さも心外だと言わんばかりに肩を竦めた。


「俺は武よりだが、筆も詩も達者だぞ。俺をどこの家の者だと思っているんだ!」


「それはいつも忘れがちだが、そなたは名家の者だったな。では時々頼むとするか」


「それが良いぞ!俺はお前が幽玄町に入り浸っていたのが気に入らんかったのだ。今後は俺も息吹の後見人として侍らせてもらうからな」


それは止めても無駄なこと。

道長の性格を熟知している晴明は、注がれた酒を一気に飲み干した。


ーー晴明は、離れた部屋で寝ている息吹に思いを馳せながら、笑んだ。


「数奇な運命の子…これ以上数奇な目に遭う前に連れ出せたと思いたい」


「大丈夫だぞ晴明!お前に救われた時点でそれは終わっている。俺たちはあの子の幸せを願ってゆこうではないか!」


豪気で豪胆な笑い声に、胸の奥でくすぶっていた不安が吹き飛んだ。

これだからこの男は面白い。

今度は晴明が道長の盃に酒を注ぎ、共に月夜に掲げた。


「息吹の幸せを願って」


最高の月見酒になった。