主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

「おや?もう来たのか」


息吹に道長が来ることを伝える間もなく、短気で空気の読めない男は夜を待たずにやって来た。


「父しゃま?誰か来るの?」


この屋敷に誰かが来る時は、違う部屋で姿を隠していなければいけないことを教えられた息吹は、貝遊びをやめて素早く巾着に詰めた。

だが晴明は落ち着いて懐から扇子を取り出すと、その場にゆっくり座った。


「私の友人が来たのだよ。どうしてもそなたに会いたいと駄々をこねられて大変だった」


「父しゃまの…お友達?」


首をひねられるのも当然。

息吹がここへやって来てからは、入り浸りだった道長は来訪を禁じられていたのだから。


「かしましい男でね。緊張などしなくてもいいよ」


「おい晴明!庭に花など植える趣味などあった か!?…おっ?そなたが!晴明の養女か!」


息吹がぽかんと口を開けている間に、道長は縁側から客間に上がり込んでちんまり正座している息吹を見下ろした。


「花は息吹が植えた。道長、挨拶位してはどうか」


「息吹というのか、良い名だ!息吹、俺は道長と言う。此奴の友人だ。やっと会えたな」


「あ、あの…」


「そなたに会いたいと思っていたのだ。しかし可愛らしいな!そうだった、菓子を持ってきたぞ」


べらべら話し続ける道長に圧倒されて口を挟むことができないでいる息吹の前に、色とりどりの饅頭や餅菓子が並べられた。

菓子が食べたいというより、彩りに目を輝かせた息吹は、すぐさま身を乗り出してそれらを覗き込む。


「わあ、可愛い!」


「好きなだけ食え!いつでもこの道長おじ様におねだりするが良いぞ!」


「道長」


晴明に顎でくいっと隅を指された道長は、息吹に頬を緩めながら晴明の肩を抱いた。


「なんと可愛らしい子だ。あの娘が幽玄町の主の元に居たのか?」


「そうだ。元は幽玄橋に捨てられていた赤子で、その後百鬼に拾われて幽玄町の主の元で育った。…食料としてだが」


「何!?それは由々しき事態だったのだな」


「それまでは幽玄町の主とは懇意にしていたが、今は縁を切っている。いつ仕掛けてくることやら」


熱血ですぐ頭に血が上る道長は、腰に下げていた刀に手を置く。


「攻めて来そうなのか?」


「いや、矜持がある故にそれはないだろう。道長、そなたを巻き込みたくはないのだ」


「そうだな、その話を聞いたからには無視はできん。頻度は落とすが時々は顔を出す位は良いだろう?な?」


ーー有無を言わさぬ道長の押し通しっぶりに、さすがの晴明も折れざるを得ない。


「…時々なら」


「うむ、時々だな!では次は明後日で良いか!」


…だから話したくなかったのに。

その心の声は、胸に留めておいた。