主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

人の成長は早く、対して妖は遅い。


いや、人の成長が早いのではなく、妖の成長が遅いのだろう。

致命的な違いだったが、晴明にとってもこれは大きな問題だった。

半妖として生まれてからは、人より成長が早く、また人には持つことのできない強大な力にも恵まれた。

故に幽玄町を出てからはすぐに陰陽師としての才を発揮し、官僚職にも就いたが…基本的には自宅に居る。

そんな我儘が通じるのも、圧倒的な才を持っているためだ。


「おお晴明、久々ではないか」


「道長か。最近多忙なものでな」


「養女の件だな、それで俺は屋敷の出入りを禁じられているのか?」


久々に陰陽師の集う離宮へ顔を出していた晴明を訪れたのは、藤原道長という男だ。

晴明にしては唯一の人の友人であり、何かといっては酒の席を作って飲みたがる酒豪であり、そして名家藤原家の者。


周囲の者たちには、最強の陰陽師安倍晴明を擁する男として、頭角を現している。


烏帽子を取って隣に陣取ると、武芸達者で身体の大きい道長に肩で肩を突かれた。


「あの幽玄町の主関係か?」


「そうだな、当たりだ。なのでしばらくはここでしか会えぬな」


「お前の養女はおれの養女のようなもんだぞ。一目位…」


「幽玄町の輩を敵に回したいのか?あれらがこちらに攻め込んで来ぬのは、古来よりの契約があるからだ。だが私はあの大妖からあの娘を奪ってきたのだ。故に、恨まれているであろう私と屋敷には来ぬ方が良い」


話の途中から急に肩を抱いてきてにやにやしている道長が言うことを聞きそうにないことに、晴明の憂鬱なため息が出た。


「わかってはもらえぬのか」


「ああ、もらえんな。妖位、斬ってみせるとも。前提として言っておくが、いざとなればお前がどうにかしてくれるだろうと思っておるぞ」


豪胆に笑った道長に周囲の同僚たちが一斉に咳払いをした。

道長は晴明の腕を引っ張って立たせると無理矢理退出して外へと出ると、大きく伸びをした。


「私を買い被ってもらっては困るな。幽玄町の主は恐ろしく強く、また百鬼たちは一騎当千。私が太刀打ちできると思うのか?」


「できるとも。だから幽玄町の者を養女に迎えたんだろうが」


…とことん、楽観主義。

完璧を求めがちな晴明には不似合いな友人だが、何故か仲が良い。


「わかった。今宵、我が屋敷にて」


「おお、ありがたい。美味な菓子でも持って参上する」


そしてまた豪胆な笑い声を飛ばして去って行く。

晴明はまたひとつため息をついて、微笑を噛み殺した。