主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

芦屋道満といえばーー陰陽師という同業者で、何かといっては食ってかかってくる血の気の多い男だ。

難癖をつけては対決を臨んできてくるので、晴明にとっては鬱陶しくて仕方のない男なのだが…


最近大人しくしているかと思ったら…どうやら色々探られていたらしい。

その手口に、牛車を急がせてようやく屋敷の前に着いた晴明は、密かに憤慨していた。


「道満の牛車だな。やれやれ」


扉の前に居るのは、やたら不細工な作りの童子の式神。

息吹は言いつけ通りに扉を開けなかったらしく、道満が力業で何やらしでかそうとしているところだった。


「おやおや道満殿か。我が屋敷に何用かな?」


「おお、これはこれは晴明殿、留守でしたか」


牛車を降りてきた男は、金糸をふんだんに使ったやたら豪華な直衣を着た男だ。

初老で口髭を生やし、さも偉ぶっているが…陰陽師としての力は晴明の足元にも及ばない。


「留守も何も、無理矢理扉を破ろうとしているように見えるが?」


「そなたがあの幽玄町から連れ出したという女子に興味があるのだよ。…あそこから出て来たのだ、どうせ人ではないのだろう?」


ーー何かといっては遠回しに、自分が人ではないことを卑下してくる道満の態度にはもう慣れていたが…

息吹をも巻き込んできたのならば、話は別。


「…急急如律令、云」


人差し指と中指をを口元に構えて素早く唱えると、不細工な式神が、不細工な五芒星が描かれた紙切れへと戻った。

逆鱗に触れてしまったと悟った道満もまた臨戦態勢に入り、同じく印を構える。


「そなたには何の関係もないこと。ただの童女ですよ」


「だが幽玄町を仕切っているあの妖が許すまい。どのような技を使った?」


「なに、私は人ではないので、あの大妖には縁がありましてね。ですので、あの子に興味がおありならば、幽玄町の主も黙ってはいないでしょうな。はて困りましたなあ、全面戦争になるでしょう。その場合、責任の所在はどこでしょうねえ」


困り果てた顔を作りながら畳み掛けるようにそう言い、扉の向こう側に居るであろう息吹に声をかけた。


「息吹、私だよ。遅くなってしまって申し訳ない」


「!晴明しゃま!」


ぎい、と音を立てて扉が開く。

柄杓を手に戦おうとしていたのか、駆け寄ってきた息吹の肩に手を置いて、晴明が微笑で振り返る。


「で、何用でしたかな?」


「も、もういい!」


幽玄町の主を敵に回すわけにはいかないのだろう、道満が慌てて牛車に乗り込む。


「間に合ってよかった」


心からの、声だった。