どん、どん。
扉を叩く音は鳴り止まない。
晴明に引き取られてからというものの、外へ出ることを禁じられている息吹は、迷いを振り払うように首を振って再び人魚の手を握りしめた。
「だ、誰だろ…」
「正面から来る馬鹿は滅多に居ない。余程腕に自信のある奴だろ」
「腕に自信って…?」
「芦屋道満の馬鹿さ。晴明の敵って言ったらわかるかい」
敵と言われると、なおさら開けるわけにはいかない。
息吹は杓子を武器のように構えて扉を睨んだ。
「我が主の芦屋道満様の式神の者でござりまする。あの幽玄町からいらしたという息吹様にお会いしたく」
「え……晴明しゃまにじゃなくて…私に…?」
杓子を構える手が下がる。
道満の式神は、この様子を縁側に正座して沈黙している式神よりも、声がくぐもっているように聞こえた。
「晴明しゃまの式神さんと…なんか違う」
「力の差は式神でわかるもんだ。あんた、耳を貸すんじゃないよ」
「我が主道満様は、幽玄町の主さまと呼ばれている妖にも関心がおありです。主はすぐそこの牛車に居られます。どうか扉を」
ーー主さま。
もう忘れなければいけないその名をちらつかせる道満の意図が見えない。
あの橋を渡れるのは今まで晴明だけだった。
それを人が渡ってやって来たという噂をどこからか聞きつけた道満は、きっと自分を餌に、晴明をやり込めるつもりなのだろう。
「あ、開けることはできません。帰って下さい」
「危害などくわえるつもりはございませぬ。我が主が一目見たいとおっしゃっておられまする。どうか一目だけでも 」
…なかなか粘る。
黙っていると、扉を叩く音がだんだん強くなり、それが轟音へと変わる。
「に、人魚さん、怖い…っ!」
「開けなきゃ平気さ。多分ね…」
外から聞こえるのは、扉を叩く轟音と、時々聞こえる呪文のようなものを唱える男の声。
力技で乗り込んでくるつもりなのか、扉がきしみ、めりめりと音を立て始めた。
そこでようやく童女の姿をした式神が動く。
懐から出した五芒星の描かれた白い札を手に、扉の前に立つと、それをばしっと貼り付けた。
一瞬、かっと白い光が扉から放たれる。
身を竦めた息吹の手を握り返した人魚が、ほうと息を吐いた。
「戻って来るよ」
宿敵同士が、顔を合わせる。
扉を叩く音は鳴り止まない。
晴明に引き取られてからというものの、外へ出ることを禁じられている息吹は、迷いを振り払うように首を振って再び人魚の手を握りしめた。
「だ、誰だろ…」
「正面から来る馬鹿は滅多に居ない。余程腕に自信のある奴だろ」
「腕に自信って…?」
「芦屋道満の馬鹿さ。晴明の敵って言ったらわかるかい」
敵と言われると、なおさら開けるわけにはいかない。
息吹は杓子を武器のように構えて扉を睨んだ。
「我が主の芦屋道満様の式神の者でござりまする。あの幽玄町からいらしたという息吹様にお会いしたく」
「え……晴明しゃまにじゃなくて…私に…?」
杓子を構える手が下がる。
道満の式神は、この様子を縁側に正座して沈黙している式神よりも、声がくぐもっているように聞こえた。
「晴明しゃまの式神さんと…なんか違う」
「力の差は式神でわかるもんだ。あんた、耳を貸すんじゃないよ」
「我が主道満様は、幽玄町の主さまと呼ばれている妖にも関心がおありです。主はすぐそこの牛車に居られます。どうか扉を」
ーー主さま。
もう忘れなければいけないその名をちらつかせる道満の意図が見えない。
あの橋を渡れるのは今まで晴明だけだった。
それを人が渡ってやって来たという噂をどこからか聞きつけた道満は、きっと自分を餌に、晴明をやり込めるつもりなのだろう。
「あ、開けることはできません。帰って下さい」
「危害などくわえるつもりはございませぬ。我が主が一目見たいとおっしゃっておられまする。どうか一目だけでも 」
…なかなか粘る。
黙っていると、扉を叩く音がだんだん強くなり、それが轟音へと変わる。
「に、人魚さん、怖い…っ!」
「開けなきゃ平気さ。多分ね…」
外から聞こえるのは、扉を叩く轟音と、時々聞こえる呪文のようなものを唱える男の声。
力技で乗り込んでくるつもりなのか、扉がきしみ、めりめりと音を立て始めた。
そこでようやく童女の姿をした式神が動く。
懐から出した五芒星の描かれた白い札を手に、扉の前に立つと、それをばしっと貼り付けた。
一瞬、かっと白い光が扉から放たれる。
身を竦めた息吹の手を握り返した人魚が、ほうと息を吐いた。
「戻って来るよ」
宿敵同士が、顔を合わせる。

