式神の引く牛車で呼びつけられた先ーー御所へ着いた晴明は、牛車から降りた直後、はっと顔を上げた。
何者かが屋敷を訪れたーーそれも、人ではない。
だが息吹が扉を開けなければ入れないほどの強力な結界が働いている。
一瞬身を翻して戻ろうかと思ったが、件の者はーー幼くして帝となった男だった。
無下にしては今後長期になるであろう計画に支障が出る。
短い息を吐いて御所の長い回廊を歩く。
女御たちが御簾越しに黄色い声を上げていたが、それには応えもせず、最奥にある場所へと突き進んだ。
「せ、晴明殿…くれぐれも帝のご機嫌を損ねてはいけませぬぞ」
「帝が私の機嫌を損ねなければ、問題ない」
帝の居る内裏は人の出入りが少ない。
晴明を案内している近衛兵は、妙な圧を感じて額の汗が止まらない。
普段は冷静沈着で掴み所のない晴明が発する妖気にあてられているせいだ。
「私は急いでいる。のんびり茶など啜るつもりはない」
「か、かしこまりまして」
さらに人の出入りが減った。
帝の座す部屋へと着いた晴明は、軽く一礼して足音もなく御簾の下がった場所で袖を払い、ゆっくり座った。
「どうした、何か急いでいるのか?」
「少々私用がありまして。本日は何用で私をお召しに?」
御簾の奥で影が動く。
そして御簾が上がり、姿を現したのはーーまだ二十にも満たない若者だった。
先帝が崩御して急遽与えられた帝という地位に座して僅か。
側近に操られ、疑心暗鬼にかられて相談する者が少なく、外部の者として相談されることが多い。
「信頼できる者が居らぬ。して今後そなたに相談役に就いてもらいたい」
「ほほう、それは面白いですな。私があなたを操って都を混乱させることはお考えになられなかったのですかな?」
晴明は人ではないーーそれをわかっていても、藁にも縋りたいのか、帝は身を乗り出した。
「私はそなたを信用している。そなたの陰陽術は外れたこともなく、また友人も少なかろう。私を嵌めても意味はないだろう」
ーーいずれ嵌めて亡き母の仇を討ってやるつもりだがね。
心中そうほくそ笑み、それがうっすら表情に出たのか帝は急に暑くなったのか、扇子で顔を仰いだ。
「考えておきましょう。ではこれにて」
「そなたの屋敷に居る小さき者にもよろしく」
「…何故、それをこ存じで?」
「私は帝だぞ。だが危害をくわえるつもりはない。よろしく、と言っただけだ」
軽く脅しをかけられた晴明の目が一瞬光ったように見えた。
帝が急いで御簾を下げると、晴明は颯爽と立ち上がって一礼もせずに御所を出る。
その小さな人を守るために。
何者かが屋敷を訪れたーーそれも、人ではない。
だが息吹が扉を開けなければ入れないほどの強力な結界が働いている。
一瞬身を翻して戻ろうかと思ったが、件の者はーー幼くして帝となった男だった。
無下にしては今後長期になるであろう計画に支障が出る。
短い息を吐いて御所の長い回廊を歩く。
女御たちが御簾越しに黄色い声を上げていたが、それには応えもせず、最奥にある場所へと突き進んだ。
「せ、晴明殿…くれぐれも帝のご機嫌を損ねてはいけませぬぞ」
「帝が私の機嫌を損ねなければ、問題ない」
帝の居る内裏は人の出入りが少ない。
晴明を案内している近衛兵は、妙な圧を感じて額の汗が止まらない。
普段は冷静沈着で掴み所のない晴明が発する妖気にあてられているせいだ。
「私は急いでいる。のんびり茶など啜るつもりはない」
「か、かしこまりまして」
さらに人の出入りが減った。
帝の座す部屋へと着いた晴明は、軽く一礼して足音もなく御簾の下がった場所で袖を払い、ゆっくり座った。
「どうした、何か急いでいるのか?」
「少々私用がありまして。本日は何用で私をお召しに?」
御簾の奥で影が動く。
そして御簾が上がり、姿を現したのはーーまだ二十にも満たない若者だった。
先帝が崩御して急遽与えられた帝という地位に座して僅か。
側近に操られ、疑心暗鬼にかられて相談する者が少なく、外部の者として相談されることが多い。
「信頼できる者が居らぬ。して今後そなたに相談役に就いてもらいたい」
「ほほう、それは面白いですな。私があなたを操って都を混乱させることはお考えになられなかったのですかな?」
晴明は人ではないーーそれをわかっていても、藁にも縋りたいのか、帝は身を乗り出した。
「私はそなたを信用している。そなたの陰陽術は外れたこともなく、また友人も少なかろう。私を嵌めても意味はないだろう」
ーーいずれ嵌めて亡き母の仇を討ってやるつもりだがね。
心中そうほくそ笑み、それがうっすら表情に出たのか帝は急に暑くなったのか、扇子で顔を仰いだ。
「考えておきましょう。ではこれにて」
「そなたの屋敷に居る小さき者にもよろしく」
「…何故、それをこ存じで?」
「私は帝だぞ。だが危害をくわえるつもりはない。よろしく、と言っただけだ」
軽く脅しをかけられた晴明の目が一瞬光ったように見えた。
帝が急いで御簾を下げると、晴明は颯爽と立ち上がって一礼もせずに御所を出る。
その小さな人を守るために。

