主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

その夜息吹は若葉と一緒に眠る最後の夜を過ごした。

若葉が幽玄橋に捨てられていた時の話から現在に至るまで、共に過ごした時を分かち合い、話し合い、声を上げて笑いながら寂しさを紛らわせて、結局朝まで語り尽くしてしまい、戻って来た主さまに怒られた。


「明け方まで話し込んでいたのか?元気な奴だな」


「主さまお帰りなさい。あのね、銀さんと若葉から大切なお話があるから眠る前に聞いてあげて」


銀もまた眠らずに朔と共に明け方まで語り合っていたので、主さまが戻って来るとすぐそれに気付いて縁側に姿を見せた。

銀の顔を見た途端なんとなく決意を察した主さまは、百鬼に解散を告げると縁側に座って息吹が出してくれた茶を一気に飲み干した。


「…で、なんだ?眠たいから早く話せ」


「ここを離れる。しばらくは…5年は帰って来ない。いや違うな、俺だけは晴明に薬を貰いに時々戻るが、若葉と子は高千穂に留まらせる。…ずっとだ」


「…そうか。高千穂と言ったな、気は進まないが、親父と母には話を通しておく。何かあったらそちらを頼るか、俺に相談しに来い」


「ああ、わかった。…我が儘ばかり言って申し訳ない。さらに急で悪いが今から発つ。身の回りの者は高千穂で揃える」


「ぎんちゃん待って、お姉ちゃんから色々貰ってるから持って行けるものは持って行きたい」


息吹が慌てて荷物をまとめて風呂敷に詰めたが…結構な量だ。

だが息吹はけろっとして小さく舌を出すと、仰天の言葉を口にした。


「白狐の銀さんは大きいから、お腹に括りつけておけばいいでしょ?」


「…見栄えは悪いが仕方ない。ほら、括りつけられる分だけやれ」


早速大きな白狐に変化すると、子狐が足元にまとわりついて喜びを爆発させる。

息吹は涙が零れそうになるのを必死に堪えながら、銀のふかふかのお腹に大きな風呂敷を括りつけた。


「若葉をよろしくね。もう会えなくなるなんて…本当に悲しい…」


「またいつか会えるから泣くな。どんな姿で転生してくるか楽しみじゃないか。俺は今の若葉が好きだから、また同じ姿で生まれてくるといいな」


「銀」


若葉と子狐を背に乗せた銀に呼びかけた主さまは、顔の前に立って銀の鼻を思いきりつねった。


「痛いな、何をする」


「…達者にな」


「ああ、もちろんだとも。……若葉?」


鼻を啜る音が聞こえたので首を捩って背中を見ると――若葉は両手で顔を覆って、泣いていた。

…また転生して巡り合えるとわかっていても、今の姿で会えるのはもうこれで最後。



「若葉…また会おうね。また“お姉ちゃん”って呼んでね。ずっと待ってるから」


「うん…うん…。お姉ちゃん、またね。主さま…みんな…またね」



そして銀が大地を蹴って空を駆ける。

あっという間に主さまたちの姿が見えなくなった時…若葉は声を上げて泣いた。


寂しかったけれど、今の姿で銀と少しでも長く生きるために選んだ決断。

声を上げて泣き続け、銀は無言のまま力強く空を蹴って高千穂を目指した。