主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

「さて、診察させてもらおうか。今宵は細部まで診るつもり故着物を脱いでもらうが」


「はい、大丈夫です。…ぎんちゃん顔がむってしてる」


「俺も傍に居るから妙な気を起こすなよ」


「何を言う、私は妻と娘一筋だ。つまらぬ嫉妬は妬かぬように」


「ちょ…あんた何を口走ってるんだい!?いいから早く若葉を診察しな!」


顔を真っ赤にした山姫に怒られて肩を竦めた晴明は、息吹が不安げな顔でじっと見上げて来ると、さらさらの黒髪を撫でて微笑した。


「私に任せなさい。あとで共に酒でも飲もうか」


「はい。父様、お願いします」


銀と若葉と3人で別室に移動すると、あらかじめて火鉢で温めておいた部屋で若葉が橙色の着物を脱いだ。

晴明はその間に熱湯で手を洗って腕まくりをして準備を進めていたのだが、銀が隣に腰かけてきて息吹と同じような表情をしていたので、思わず噴き出した。


「いつもの診察をするだけなのだが」


「体調が良すぎることを不安がるのはおかしいことだとわかっている。だが今まで病気がちだったから体調が良すぎると気味が悪い」


「奇跡が起こったのやもしれぬぞ」


「?」


上半身裸になって晴明の前に腰かけた若葉に笑いかけた晴明は、瞳を閉じて指先に意識を集中すると、そっと胸に押し当てた。

…相変らずごろごろという妙な音はするが…病の進行は止まっているような気がする。

出産してからは体調を崩すこともなく、咳き込む回数も驚くほど減ったという若葉の身体――


「…これは驚いたな」


「なんだ、どうした?若葉の体調はどうなんだ?晴明、ちゃんと話せ」


「しばし待て。…うむ、やはりそうだ。若葉の胸を蝕んでいる病は今進行を止めている。ということは…5年以上生きることのできる確率が上がったということだ」


銀と若葉は顔を見合わせて絶句し、晴明はまた熱湯で手を洗いながら呆れ顔を作った。


「生きようとする力…それが病に押し勝っている。人の力とはかくも偉大なものだ。子を守りたいと願う力…そなたと共に生きたいと思う力…。銀、若葉を誉めてやるがよい。これは若葉が起こした奇跡だ」


「若葉…」


見つめ合う2人を残して部屋を出た晴明は、苦笑して肩を鳴らすと、囲炉裏の前で待ち構えていた息吹に早速捕まった。

袖を払って囲炉裏の前に座った晴明は、早速膝に上がってきた子狐の小さな頭を撫でてやりながら息をつき、口を開いた。