主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

「ぎんちゃんどこに行ってたの?この子がきゅんきゅん鼻を鳴らして寂しがってたよ」


「いや、ちょっと知り合いが居たから立ち話をしていた。…なんだその顔は」


「どうせ女の人でしょ。実は外に子供が居たりして」


珍しく若葉に詰られて息をつきながら隣に腰かけると、早速子狐が膝に上り込んできて尻尾を振り回して喜んだ。

瞳の色は濃紺で、毛の色は白銀。

どこもかしこも自分に似ているから可愛くて仕方がない。


「外に子供など居るものか、勘ぐるんじゃない。若葉、今日は天気が良いから土手を散歩しよう。息吹、また後で寄る」


「うん、夜はご飯食べて行ってね、腕を奮うから」


「お姉ちゃん、私も手伝う」


――穏やかな日々の影に忍び寄る病魔は、じわじわと若葉を蝕み続けている。

天気の悪い日は塞ぎ込みがちになるので、太陽が顔を見せている時はなるべく外に出るように心がけている銀は、赤子の姿に戻った子を腕に抱くと、もう片方の手で若葉の手を握って主さまの屋敷を後にした。


「ねえ主さま、父様を呼んでもいい?一緒にご飯食べたいな」


「勝手にしろ。あとついでに若葉の診察もしてもらえ」


不器用な優しさを見せる主さまと話していると、朔が話に加わって息吹の前に座った。

よくよく観察すると主さまにそっくりになり、端正な美貌に夢中になっている女の妖も多いという。

銀も人気があったがすっかり女遊びもしなくなり、あっという間に彼女たちの関心は雪男や朔へと移っている。


「お母様、お父様…若葉は本当にあと5年で死んでしまうんですか?今日は顔色も良かったし…とてもそういう風には」


「晴明の見立てに間違いはない。俺も間違いであってほしいとは思うが、銀の話では最近は体調が良いと言っていたが、油断はしない方がいいと忠告しておいた。…人は儚い」


「…主さま…」


うなだれた息吹の頭を撫でた主さまは、銀と若葉に子が生まれて幸せで穏やかな日々が少しでも長くなるように、ありとあらゆる方法を模索していた。

特に晴明はよく協力してくれて、延命に効く水などを取り寄せたり八卦や星を見たりしてくれている。

今若葉の体調がすこぶる良いのは何の前触れか――


「お料理の準備しなきゃ。朔ちゃん、お買い物に付き合ってね」


「はい」


恙ない日々を過ごすことができるように、誰もが銀と若葉の幸せを祈っていた。