主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

遊び疲れると、末っ子の女の子の隣にぴったりくっついて眠ってしまった子狐の頭を撫でた若葉は、主さまと談笑している銀を見て小さく笑った。


「お姉ちゃん、私が体調がいいとぎんちゃんがよく笑ってくれるの。晴明様には何度お礼を言っても言い足りない位。私…あとどの位生きれると思う?」


「…そういうことを考えるのはやめようよ。感謝の言葉は父様に直接言うときっと喜んでくれるよ。ねえ若葉…銀さんは今の若葉となるべく長く一緒に居たいんだから、体調には本当に気を付けてね」


「うん、気を付けるね。この子のためにも…ぎんちゃんのためにも」


――若葉の顔色は本当にとても良い。

もしかしたら10年ではなくもっと長く生きることができるかもしれない、と晴明が言っていたことを思い出した息吹は、百鬼たちがあちこちで見つけては持ち帰って来る延命に効くという木の枝や置き物などを入れた風呂敷を若葉に見せて、笑った。


「これ見て。みんなが若葉のことを心配していつも持ち帰って来るの。父様が見分して使えるものを分けてるんだけど、お守りとか置き物とかは持って帰ってね」


「ありがとう。じゃあ今日早速飾らせてもらうね」


息吹と若葉が声を上げて笑いながら談笑していると、主さまと銀の眉がぴくりと上がり、庭に視線を遣った。

すると石垣から庭を覗き込んでいた何者かの頭が慌てて引っ込み、主さまがぼそりと呟いた。


「…約束を破ろうとしている者が来たぞ。行って来い」


「あいつ…ふざけたことを。十六夜…あいつを殺してもいいか?八つ裂きにしたい」


「駄目だ、耐えろ。若葉が悲しむぞ」


「……行って来る」


何気ない足取りで、何気なく草履を履き、ぶらぶらしながら玄関に回って何者かが覗き込んでいた場所まで気配を殺して歩いた。

息吹や若葉は全く気付いていなかったが…その男を視界に捉えた銀は、鋭い爪をにゅっと出すと、男の背後に回って首に押し当てた。


「何をしに来た。殺されに来たのか?」


「…!し、銀…さん…。俺…若葉の様子が気になって…」


俯けもせず振り向けもせずにごくりと喉を鳴らした男――丙は、冷や汗をかきながら両手を挙げて抵抗の意志が無いことを示す。

だが銀は無言のまま、爪を立てたまま…押し殺した声を出した。


「お前が気にする必要はない。若葉は俺の子を生んで元気にしている。わかったらすぐに去れ」


丙は、子狐を膝に抱く若葉に釘付けになっていた。

今もずっと――若葉を忘れることができないでいた。