主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

それからというものの、銀と若葉が暮らしている屋敷は騒がしくなった。

どちらかというと人型よりも白狐の姿の方が安定するのか、子狐は部屋中をぴょんぴょん飛び跳ね回り、銀は子狐を追いかけ回って捕まえる毎日を楽しんでいた。


「こらお前はまたそんな隅に。こっちに来い、若葉が心配しているぞ」


「きゅんっ」


白い尻尾を振りまくって駆け寄って来た子狐を抱っこして若葉の元に連れ戻すと、台所で野菜を切っていた若葉の脚にじゃれついて抱き上げろと言わんばかりに伸び上がった。


「ちょっと待ってね、これが終わったらお乳をあげるから」


もう言葉を理解しているのか足元にちょこんと座ってじっと見上げてくる可愛い我が子の存在に勇気づけられた若葉の体調はすこぶる良くなった。

出産するまではよく体調を崩したが、出産後は快調すぎて気味が悪いほどで、銀と一緒に朝食を食べた後膝に上がってきた子狐は赤子の姿になり、若葉の胸を手で押しながらお乳を飲んだ。


「今日はお姉ちゃんのところの赤ちゃんと一緒にお昼寝させる約束をしてるの。朔ちゃんもお世話してくれるって」


「じゃあ行くか。そいつはあまり眠らなくて苦労するんだが、何故か朔や十六夜があやすとよく眠るんだ。むかつく」


銀が抱っこすると、一緒に遊んでくれるものだと勘違いするのかなかなか眠ってくれない。

だが朔や主さまが抱っこすると、うっとりした目つきで指をおしゃぶりしながら眠ってしまう。

不満を口にして唇を尖らせた銀と一緒に手を繋いで主さまの屋敷に着くと、庭で花をいじっていた息吹が顔を上げて笑いかけてきた。


「銀さん、若葉おはよう。今日はうちの子と遊んでくれるんだよね?ほら見て、嬉しそうにしてるよ」


縁側で日向ぼっこをさせていた女の子の末っ子が手足をばたばたさせて喜んでいると、赤子の姿から子狐の姿になった我が子が縁側に駆け上がって女の子の周りをぐるぐる回って飛び跳ね回っていた。


「元気だな。お前に似て利かん坊になりそうで先が思いやられる」


「朔も赤子の頃はこんな感じだったろうが。うちの子だけじゃないぞ」


夫婦の部屋から出て来た主さまにそう言い返すと、ぐるぐる回っていた子狐は主さまに駆け寄って抱っこしてもらうと、ふわふわの耳を撫でてもらってうっとりしてしまう。

それに息吹が加わってしまってもみくちゃにされて喜んでいる姿が可愛らしく、銀と若葉は肩を並べて縁側に座ると、穏やかな日差しを楽しんだ。


…少しずつ迫ってくる別れ。

逃れようのない別れに怖じ気たくはない。

だから、笑って日々を過ごす。