主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

産湯で身体を洗ってやった後、まっさらな産着を着せて赤子を腕に抱いた若葉は、小さすぎる手で小指を握ってくる赤子に無限の愛しさを感じて頬を緩ませた。


だが半妖であるが故にまだ個体として定まらず、人の赤子の姿以外にも、真っ白な白い子狐の姿になったりころころ変化するので、それを銀と笑った。


「そういえば十六夜と息吹の子も幼いうちは角が生えていたな。晴明も童子だった頃は尻尾と耳が隠せずに晒していた時期があった」


「えっ、そうなの!?父様…隠さない方が可愛いのに!今度ゆっくり見せてね」


お産の後片付けをした後、赤子を抱く若葉を取り囲んで茶を飲んでいると、息吹がそう声を上げて隣の晴明の袖を引っ張った。

確かに童子だった頃は力が安定せずに尻尾と耳を隠せずにいたが、この白狐もある程度成長するまではころころと姿を変えるかもしれない。

それに銀の力をしっかり受け継ぎ、開いた瞳からは力が感じられた。


「見せてもいいんだけどねえ、そうなると息吹が私に夢中になってしまう故、私が十六夜に睨まれてしまう」


「主さまはそんなことで怒るほど心が狭くないもん。ね、主さま」


「……」


仏頂面になってしまった主さまは、若葉から手渡された赤子を抱かせてもらうと、顔を寄せて小さな声で呼びかけた。


「…いつかは銀と共に朔の百鬼夜行に加わって支えてやってくれ。成長するまで俺たちが見守る」


「主さま…ありがとう。私の分までこの子を愛してあげてね」


別れの匂いを感じさせる若葉の言葉に哀愁を覚えた主さまと息吹は、代わる代わる真っ白な耳を撫でてへにゃっと笑った赤子を慈しんだ。

その後赤子にお乳を与えるために主さまたちが部屋を出ると、若葉ははじめて赤子にお乳を含ませた。


「すごい勢い。見てぎんちゃん」


「食い意地が張っている奴だな。若葉、この子に体力を奪われないようにこれからは前以上に食え。欲しいものならなんでも買ってきてやる」


「ぎんちゃんありがとう。ふふふ…可愛い…。もう1人生めるといいな」


「無理をするな。俺は少しでも長くお前と一緒に居たいんだ。だからこの子だけでいい」


大切なものを失いたくない――

また出会えるとわかっていても、“今”の若葉と過ごせる時間はもうそんなに長くは残されていないのだから。