主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

難産になった、

苦しめど力めど、赤子は一向に生まれてこようとしない。

一昼夜をかけても生まれてくる気配はなく、さすがに晴明も心配して駆けつけてくれたが―――若葉が頑張るしかないのだ。


「うぅ、ん…っ」


「頑張って!若葉、もうすぐ生まれてくるからね!」


「荒療治になるが、押してみよう。力みが足りぬのかもしれぬ」


元々弱っている若葉の体力では精一杯力んだとしても力が足りないのかもしれない。

腕まくりをした晴明は、すでに意識が朦朧とし始めている若葉の腹に両手を添えると、緩急をつけて大きな腹を押した。

若葉はそれに合わせて精一杯力み、銀は若葉の上半身を支えてやりながら、ずっと励まし続ける。

主さまや雪男も部屋の隅で若葉のお産を見守り、一昼夜続いた戦いの末に、若葉の足元に座っていた息吹が顔を輝かせた。


「若葉っ、もう少しだよ!父様、あともうちょっと!」


「わかった、若葉…頑張りなさい。そなたが望んでいた銀との子だ。さあ、今だ、力んで」


「赤、ちゃ、ん……っ」


晴明が強く腹を押した直後、痛みももう感じなくなっていた身体で持てる限りの力で力んだ。

胎内で留まり続けていた赤子はするすると産道を通り――そして、生まれた。


「んぎゃ、んぎゃあっ、おぎゃあっ!」


「あ、ぁ…生まれて…きた…」


――生まれたばかりの真っ赤な赤ちゃん――

だが頭の上には白い耳があり、お尻には可愛くて白い尻尾が生えていた。

間違いなく銀の子で、大きな声で泣き続ける我が子を見た途端、若葉は銀の手を強く握って息をついた。


「ぎんちゃん…赤ちゃんだよ…」


「ああ…よく頑張ってくれた…。ほら若葉、腕に抱いてみろ。その後俺にも抱かせてくれ」


息吹がへその緒を切って大事に大事にして若葉の腕に抱かせると、まだ泣き続けている赤子をよく見た2人は、小さく笑った。


「ぎんちゃんにそっくり…」


「ああそうだな、俺にそっくりだ…。お前に似ている所を探すのが難しいほどだな」


「ぎんちゃん…あと5年あるよ。もう1人生みたいな…。次は、私に似てる子を…」


〝2人目は望まない方がいい”――

喉まで出かかった言葉を晴明は飲み込み、ぬるま湯で満たした盥で赤子の身体を洗ってやっている若葉と銀を見つめた後、主さまにちらりと視線を走らせた。

主さまはそれで全てを理解したのか――頷いた。