主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

天女が子供を授けてくれた――

夢で確かに天女を見た若葉は、その日からそう熱弁して絶対に子供を授かったと信じて疑っていなかったが、若葉の生理が止まるまで半信半疑だった銀は、百鬼夜行から戻って来て寝ようとしていた主さまを捕まえて客間に引きずり込んだ。


「なんだお前は。またうちに来ていたのか」


「天女の話をしたい。あの腹帯を貰ってからすぐに見た夢だったそうなんだが…また息吹の奇跡か?木花咲耶姫が…」


「…わからない。だが喜ばしいことじゃないか。5年待った子に恵まれたんだぞ、素直に喜べ」


「俺が…父親に…。なんだか信じられない」


「そろそろつわりが始まる頃だ。お前が傍に居てやらなくてどうする」


「ああ、そうだな。呼び止めて悪かった。親子川の字になって寝るといい」


まだ小さな赤子を腕に抱いた息吹が囲炉裏の前で主さまを待っていたので、銀がその赤子の額に生えている小さな角を指でくすぐると、へにゃっと笑顔を見せて心がふんわりした。

急ぎ足で屋敷に戻ると、青白い顔をした若葉が手桶を持って火鉢の前に座っていたので、銀は隣に座って背中を撫でてやりながら、若葉の肩を抱いた。


「つわりが始まったのか。つらいか?何か食いたいものは?」


「ううん、ない…。ぎんちゃん、これがつわりなんだね…。お姉ちゃんはこんなに苦しいのを何回も…」


「お前もこれから何回も体験することになる。ほら、横になれ。晴明の薬は飲んだか?」


「うん…つわりに効く薬があるからってつわりを和らげる薬もくれたよ。ぎんちゃん…また寝込んじゃってごめんね」


時々若葉は寝込むことがある。

特に妊娠してからは寝込むことが多くなり、胸の病のせいではないと若葉は言い張るが、あとそんなに残されていない命を少しでも長いものにするように苦慮していた。


「別に寝込んだっていいぞ、俺がずっと傍に居てやる。…生まれてくる子は男だと言ったな。可愛かったか?」


「うん、尻尾と耳があって、ぎんちゃんにそっくりだったよ。可愛くて…今も腕に感触が残ってるの」


床に横になった若葉が愛しそうに自身の腕を撫でる。

銀は隣に潜り込んで腕枕をしてやりながら幸せそうに語る若葉の話を聞き、手を伸ばしてまだ平らな若葉の腹を撫でた。


「よしちゃんと腹帯をつけているな。絶対転んだりするんじゃないぞ、どこかへ行く時は必ず俺に声をかけろ」


「ぎんちゃんの心配性」


笑われたが、待ち望んでいた小さな命。

若葉が必死になって遺してくれようとする小さな命を守り抜くためなら、なんでもしよう。