主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

「これね、腹帯なの。妊娠する度にずっとこれをつけてたんだけど、この子が生まれたらしばらくは子供は生まずにゆっくりしようって主さまと話してたの。だからこれ、若葉に貰ってほしいの。ここにね、お守りも入ってるんだよ」


若葉が子宝に恵まれずに悩み始めた時から、息吹は実は近所の神社に通い詰めて祈祷していた。

自己満足でしかないのかもしれないとわかっていつつも止められずに、見兼ねた主さまが止めに入るまで約半年もの間、延々と毎日朝晩通い詰めた。


腹帯に括りつけていた何の変哲もない朱色のお守りには、子宝に恵まれるようにとの息吹の願いが込められている。

…息吹もかつて主さまと夫婦になったばかりの頃は子供が欲しくて欲しくて仕方なかった時期がある。

この腹帯はその時に自分自身で作り、完成してからは腹に巻き続けて朔を授かった経緯があるありがたい腹帯だ。


「これね、すごく縁起が良い腹帯なの。うちにはもう子供が沢山居るから、これは若葉に貰ってほしいの。…お願い、断らないで」


「お姉ちゃん……ありがとう。すごく嬉しい。ねえぎんちゃん、後でこれ私に巻いて」


「ああ、いいとも。息吹…気を遣わせて済まないな。お前を悩ませるつもりじゃなかったんだが…さすがに5年も子が出来ないとなれば、俺に子種がないのかと悩んでしまった時もあった」


「それを言うなら私にだよ。私の身体が弱いからそれで…」


「そこの2人、いちゃつくな。その腹帯は本当にありがたい腹帯なんだ。若葉、今日からそれを巻いて過ごせば必ず子宝に恵まれる。俺が生き証人だ」


「朔ちゃん…。うん、じゃあそうするね。お姉ちゃん、身体が冷えるといけないからゆず茶を作ってきてあげる。ちょっと待っててね」


嬉しさで顔を輝かせた若葉が台所に向かうと銀が後を追いかけてゆき、残った息吹と山姫、雪男、朔は顔を見合わせてほっと息をついた。

久々に悩みから解放されたような若葉の笑顔を見ることができたので息吹たちもまた嬉しくなりつつ、長きにわたってお守りともなっていた腹帯を抱きしめた息吹が朔の肩に寄りかかって瞳を閉じていると、若葉と銀が戻ってきた。


「お姉ちゃん、はいこれ。お守りと腹帯をありがとう。すごく気持ちが軽くなった」


「良かった。銀さん、寝る前に若葉に腹帯をつけてあげてね。つけ方は…」


「なんとなくだが、わかるからいい。お前と十六夜には頭が下がりっぱなしだ」


銀の濃紺の瞳が和らぎ、尻尾と耳が忙しなくぴょこぴょこと動く。

息吹と若葉は代わる代わる銀の尻尾と耳を触って楽しんだ。