主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

怖さのためか、寒さのためか…

若葉の震える身体を抱きしめた銀は、限りなく優しい気持ちで、若葉を抱いた。

今まで数多くの女と遊んできたが、所詮その場しのぎ。

何から逃げていたのか…

何を怖がっていたのか……


その正体は今、組み敷いた身体の下に居る。


「…怖かっただろう?優しくしたつもりだが…」


「大丈夫…。ぎんちゃん、これで赤ちゃんできたと思う?急がないと私…」


「急がなくていい。あと10年もあるんだぞ、その間に十六夜のところのように何人もできる。腹は減ってないか?薬を飲む前に何か食った方がいい」


身体を起こして背中を向けて浴衣を着直していると、衣擦れの音がして若葉もまた浴衣を着ようとしているのを肩越しにちらりと盗み見た。

それに気付いた若葉が唇を尖らせながら背中を向けたので、その白い背中を目に焼き付けながらも息吹が包んでくれた重箱の蓋を開けて用意を整えてやった。

浴衣を着た若葉がちょこんと隣に座り、若葉が好きな食べ物を小皿によそってやりながら、これが幸せなのかと噛み締める。


「美味しい。ぎんちゃんも食べて」


「ん、ああ。お前も頂いたことだし、俺はしばらくの間百鬼夜行には出ないから、いろんな場所に連れて行ってやるぞ。どこがいい?」


「でも私…幽玄町に住んでるから外には出ない方が…」


「お前は元々幽玄町で生まれた者じゃないから、いいんじゃないか?さあもっと食え。白湯を入れてきてやる」


――銀がとても優しくしてくれる。

はじめての経験は少し怖くて、少し痛かったけれど、これで銀と夫婦になれたのだと思うと胸が熱くなって、鼻を鳴らした。

しばらくすると、白湯の入った湯呑を手に銀が戻って来た。

白銀の髪と白銀の尻尾と耳――

妖と交わることはご法度とされていたが、主さまと息吹だって相容れない種族だ。

銀のような尻尾と耳のある子供が生まれたら、きっとなんて可愛いのだろうと想像するとまた胸が熱くなって、銀の肩にもたれ掛った。


「どうした、具合が悪くなったか?」


「ううん、違う。ぎんちゃん、私…ぎんちゃんを大切にするね」


「ふふっ、それは俺の台詞だと思うんだが。いきなりどうした?」


「言いたかっただけ。ねえぎんちゃん…子供ができたら…私の代わりに立派に育ててね。約束して」


「…ああ、約束する。ほら、早く薬を飲め」


せつなくも、あたたかい――

また会えると信じているから、涙は零さない。