主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

ほかほかになって戻って来た若葉の肩にすぐさま羽織をかけてやった銀は、入れ替わりに風呂に入ると、1日畏まって座っていたので肩が凝って、首を鳴らしながら風呂から上がった。

そして部屋に戻って…絶句。


ほんの10分程の間に若葉が火鉢の前で丸くなって眠っていたので、うきうきして戻って来た自分がまた馬鹿らしくなって大きくため息をついた。

言わば今夜は初夜。

緊張しながらどきどきして待ってくれているものと思っていたが…


「全く……」


若葉が床を敷いて用意してくれていたものの、最初は寝ずに待っていたのだろう。

綺麗に整えられた床は乱れておらず、銀はそっと若葉を抱き起して床に下ろすと、若葉の瞼がぴくりと動いて開いた。


「…あれ…?ぎんちゃん…私…寝ちゃってた…?」


「疲れたんだろう、待たせて悪かったな。俺はもう少し起きているから寝ていていいぞ」


普段は明け方まで遊び歩くことも多いほど眠る習慣があまりない銀は、その後台所で酒を調達して部屋に戻ると、若葉は床から出て火鉢の前で正座をしていた。


「ぎんちゃん、私も飲む」


「盃はひとつしかないぞ。まあいいか、寝ないのなら晩酌に付き合ってくれ」


少しの酒ならば飲んでいいと晴明から許しを得ていたので、盃に酒を注いで一口飲んだ後若葉に手渡すと、若葉は舌で舐め取るようにして飲んで頬を上気させた。



「美味しい。ぎんちゃん、これで私も大人になったんだよね」


「なってない。お前を大人にするのは今夜の予定だったんだが、予定が狂った」


「え?ぎんちゃん…意味がわからないよ」


「何故床がひとつなのか…夫婦になったら何をするのか…お前は丙と夫婦になった夜経験しているはずだぞ。もう忘れたのか?」



――本当は若葉がまだ処女であることを知っていたのだが、敢えてうそぶいてそう言うと、若葉は表情を曇らせて膝の上で拳を握りしめた。

その様子がなんだか哀れで、銀が口を開こうとすると、若葉は銀の手を握ってじっと見上げた。



「ぎんちゃん…違うの。私…ひのえちゃんとはなんにもしてないの。口づけはしたけど…それだけ。ぎんちゃんが好きだから、ひのえちゃんとはできなかった。だから…ぎんちゃん…」


「…若葉……いいんだな…?」


「うん…。ぎんちゃんじゃなきゃ駄目。ぎんちゃん、大好き」



…幸せにしてやろう。

生きている限り、毎日を幸せに生きて、生きて、生きて……

転生する時にはその幸せな日々を覚えたまま、戻って来る日まで――


「若葉…お前を愛している」


転生しても、同じことを言ってやる。