「で、でも主さま…あの…私もっと雪ちゃんの傍に居たい。駄目?」


…“ほらやっぱり”という表情になった主さまの顔に、また怒られるかもしれないと思って慌てた息吹は、腕から降ろしてもらうと主さまの腰に抱き着いた。


「…雪男雪男…。お前の夫は誰だ?」


「十六夜さんです。私の1番は十六夜さんで、2番も3番も十六夜さんなの。でも雪ちゃんのことも大切。私が十六夜さんのこと大好きだって気持ち…わかってもらえるよね?」


“十六夜”と連発されるとものすごく恥ずかしくなって頬を赤らめた主さまは、息吹の肩を押して身体から離れさせると、息吹の髪をくしゃくしゃにして背を向けた。


「…俺の目の届く所で話をしろ。雪男を縁側に連れて来い」


「ほんとっ?主さまありがとう、嬉しいっ」


せっかく風呂場までたどり着いたのに…。

明らかにがっかりした主さまの仏頂面は独占欲を物語り、息吹は主さまの袖を引っ張って顔を下げさせると、頬に素早く口づけをして地下室へ向かった。


「…あ、あいつめ…」


今日は雪男の復活のせいで予定がおじゃんになったが、童子の姿の雪男をいじめるのも一興。

晴明ほどではないが普段雪男にもやり込められてばかりだったし、仕返しをするならば今が絶好の機会だ。


主さまが縁側に腰掛けて眩しい朝陽を浴びていると、息吹の半分ほどの背丈しかない雪男が手を引っ張られながら主さまの前に引きずり出された。


「息吹、俺まだ頭がぼんやりしてるし寝たい…」


「寝たいの?じゃあ一緒に寝よ。私が腕枕してあげる」


「…息吹」


「腕枕!?俺は小さくっても男だっつーの!こんな予定じゃなかったのに…ちゃんと大きくなってから驚かせてやろうと思ったのに俺の目の前でいちゃつくからむかついて予定より早く出て来ちまった」


「おっきくならなくっていいよ、小さい雪ちゃんも可愛いっ」


「…息吹。俺の話を聴け」


主さまが息吹の気を引こうとするも、惨敗。

まるで足踏みのように煙管で膝を叩きながら苛立ちを募らせていると、息吹が無理矢理雪男を膝に乗っけて目じりを下げて笑った。


「主さまと私の子供みたいだね。ねえ雪ちゃん、私と主さまに赤ちゃんができたら私の時みたいに可愛がってあげてね?」


「…おう」


渋々返事をした雪男の不機嫌顔にせいせいした主さまは、息吹の膝から降りていつもの愛用の番傘を差した雪男に懐かしさを覚えて笑みを零した。