小さな頃時々添い寝をしてもらっていたように、銀は若葉が眠る頃床に入ってきて腕枕をしてくれるようになった。
銀の匂いと尻尾と耳…
こんなに身近にありながら、傍に居るのが当たり前だと思っていたし、銀を男として意識していなかったので、ときめくことはなかったのだが――
「ひのえちゃんと一緒に寝てた時と全然違う」
「丙と比べるなと言っただろうが。だが何が違う?一応聞いてやる」
「ひのえちゃんは腕枕してくれようとしたけど…私あんまり好きじゃなくて…。でもぎんちゃんのは好き。尻尾もあったかいし、ぎんちゃんの匂い好きだから」
「俺もお前の匂いが好きだな。女の匂いがするようになった」
首筋に顔を埋めてくんくん鼻を鳴らしている銀の両耳を思いきり引っ張って離れさせた若葉は、時々こうして匂いを嗅がれることが少し恥ずかしくてほんのり頬を赤く染めた。
あと10年しか生きることができないと言われたが、人間いつか死ぬ生き物。
少し早くお別れをしなければならないけれど、銀に残してやれるものも、きっとある。
「ぎんちゃん、お姉ちゃんたちが祝言の準備を進めてくれてるって本当?お手伝いしなくてもいいのかな」
「お前が主役なのに何故手伝わなければならないんだ?息吹は喜んで準備を進めてくれているから手伝わない方がいい。お前は少しでも体調が良くなるように努めろ」
「うん。あのね、朔ちゃんが色んなものを届けに来てくれるの。美味しい食べ物とか、花とか、巻物。『源氏の物語』っていうのがすごく面白くて…」
「朔がか。あいつは十六夜に似て一見冷徹に見えるが、昔からお前には優しかったな。俺も明日からは何か滋養のいいものを探しに行って来る。お前は屋敷から絶対出るなよ」
暗闇に目が慣れてきた若葉は顔を上げて銀を見つめた。
火鉢の火だけが揺れる中、銀の濃紺の瞳は真っ直ぐこちらを見据えてきていて、また照れてしまう。
ふかふかの尻尾を触ることに専念した若葉が照れていることに気付いていた銀は、若葉の唇を指でなぞって顔を上げさせると、そっと唇を重ねた。
…今はこれが限界だ。
無理強いをしてしまえばこれ以上悪化のしようがない若葉の体調がもっと酷いものとなってしまうかもしれない。
今は共にゆっくり一緒に居られれば、それだけでいい。
「ぎんちゃんって本当に私のことが好きなの?」
「おい、ふざけたことを聞くなよ。そうでなければ女遊びはやめていない」
「そっか。ふふふ」
嬉しそうに笑った若葉をやわらかく抱きしめた銀は、若葉と同じ夢を見ることができるようにと願いながら瞳を閉じた。
銀の匂いと尻尾と耳…
こんなに身近にありながら、傍に居るのが当たり前だと思っていたし、銀を男として意識していなかったので、ときめくことはなかったのだが――
「ひのえちゃんと一緒に寝てた時と全然違う」
「丙と比べるなと言っただろうが。だが何が違う?一応聞いてやる」
「ひのえちゃんは腕枕してくれようとしたけど…私あんまり好きじゃなくて…。でもぎんちゃんのは好き。尻尾もあったかいし、ぎんちゃんの匂い好きだから」
「俺もお前の匂いが好きだな。女の匂いがするようになった」
首筋に顔を埋めてくんくん鼻を鳴らしている銀の両耳を思いきり引っ張って離れさせた若葉は、時々こうして匂いを嗅がれることが少し恥ずかしくてほんのり頬を赤く染めた。
あと10年しか生きることができないと言われたが、人間いつか死ぬ生き物。
少し早くお別れをしなければならないけれど、銀に残してやれるものも、きっとある。
「ぎんちゃん、お姉ちゃんたちが祝言の準備を進めてくれてるって本当?お手伝いしなくてもいいのかな」
「お前が主役なのに何故手伝わなければならないんだ?息吹は喜んで準備を進めてくれているから手伝わない方がいい。お前は少しでも体調が良くなるように努めろ」
「うん。あのね、朔ちゃんが色んなものを届けに来てくれるの。美味しい食べ物とか、花とか、巻物。『源氏の物語』っていうのがすごく面白くて…」
「朔がか。あいつは十六夜に似て一見冷徹に見えるが、昔からお前には優しかったな。俺も明日からは何か滋養のいいものを探しに行って来る。お前は屋敷から絶対出るなよ」
暗闇に目が慣れてきた若葉は顔を上げて銀を見つめた。
火鉢の火だけが揺れる中、銀の濃紺の瞳は真っ直ぐこちらを見据えてきていて、また照れてしまう。
ふかふかの尻尾を触ることに専念した若葉が照れていることに気付いていた銀は、若葉の唇を指でなぞって顔を上げさせると、そっと唇を重ねた。
…今はこれが限界だ。
無理強いをしてしまえばこれ以上悪化のしようがない若葉の体調がもっと酷いものとなってしまうかもしれない。
今は共にゆっくり一緒に居られれば、それだけでいい。
「ぎんちゃんって本当に私のことが好きなの?」
「おい、ふざけたことを聞くなよ。そうでなければ女遊びはやめていない」
「そっか。ふふふ」
嬉しそうに笑った若葉をやわらかく抱きしめた銀は、若葉と同じ夢を見ることができるようにと願いながら瞳を閉じた。

