唇を尖らせて睨んでいる雪男は童子の姿で、だが確実に…雪男だ。


息吹は恐る恐るといった態で雪男の前で膝を折ると、唇を震わせながら雪男の手をぎゅっと握った。


「雪ちゃん…本当に…雪ちゃんなの?そうだよね…?」


「…うん。息吹…俺戻って来た。俺…息吹を守るために戻って来たんだ。…つか熱い!火傷する!」


人の体温で火傷を負ってしまう雪男の手が真っ赤になったのを見た息吹は急いで手を離すと、優しくもつっけんどんな態度が懐かしくて、今度はがばっと抱き着いた。


「わっ、お、おい、息吹!


「雪ちゃんお帰り!ずっと待ってたよ!戻って来てくれてありがとう!」


「…戻って来なくても良かったんだが」


息吹があまりにも喜ぶのでいじけてしまった主さまがぼそりと呟いて背を向けたが、そういう反応もお見通しだった雪男は童子という立場を利用して息吹のふかふかな胸をたっぷり堪能しつつ、にやけた。


「羨ましいだろ」


「…」


「いつでも留守にしていいぜ、俺が息吹を守るからさ」


「……」


喜びたいのは山々なのに、のっけから雪男に挑発された主さまは、いらっとしつつ息吹の腕を掴んで部屋から引っ張り出すと、これ見よがしに息吹を抱っこして口角を上げてにやりと笑った。


「お前がどうあがこうとも息吹は俺の妻になった。お前は所詮2番手だ。とりあえずはご苦労だったな、これからこき使うから覚悟しておけ」


「出たよ俺様。息吹、俺すぐおっきくなるから待ってろよ。主さまの愚痴でも花の水遣りでもなーんでもやってやるから」


「ほんとっ?雪ちゃん大好き!ありがと!」


「……」


息吹を抱っこしたまま無言で階段を上がった主さまは、早速息吹に文句を言いそうになって黙り込むと、笑顔全開の息吹の表情を見て呆れ返った。


「…そんなに嬉しいか?」


「嬉しいに決まってるでしょっ?雪ちゃんは私のために命を使おうとしてくれたし、私のためにいつもとっても頑張ってくれたの。あ、もちろん主さまもそうだよ、主さま大好き」


「…ふん」


付け加えたように言われて面白いわけがなく、主さまは風呂場に向かいながら息吹の鼻を甘噛みして驚かせた。


「ぬ、主さま?」


「…十六夜、だ。忘れてはいないだろうな?これからお前は俺と風呂に入った後…もういい、これ以上言わせるな」


息吹のうきうきした気持ちは一気に緊張とときめきに変わり、主さまの首に抱き着いた。