主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

目が覚める頃には帰って来るが、眠っている時はどこかへ出かけている――

そんな銀の挙動不審な様子に気が付いていた若葉は、それを本人に問うことなく体調を整えることに専念していた。

寝ているばかりではかえって身体に悪いので程よく息吹の手伝いをしたり子供たちと遊んだり、お腹いっぱいにご飯を食べて体力をつけることを心がける。

そして晴明は毎日薬を煎じて持って来てくれるし、朔は暇ができれば話し相手になってくれて、2人で火鉢に手を添えて身体を温めながら、みるみる男らしくなった朔の横顔を見つめた。


「朔ちゃん置いてかないでね」


「何を?俺はお父様から百鬼夜行を継いでもここで暮らしていくし、若葉はあの家に戻るんならご近所さんに変わりないし。若葉こそ先に嫁に行くなんて…若葉の方が俺を置いて行くんじゃないか」


「朔ちゃんはもてるでしょ。好きな人は居ないの?まだお嫁さんを貰うつもりはないの?」


若葉にありったけの袢纏を着せて寒くないように気を付けてやりながらも、朔はおどけるように肩を竦めてため息をついた。


「まだいい。妹や弟たちが大きくなるまではしない。銀との間に子が生まれたら、俺が遊び相手になってあげる」


若葉と話している時だけは口調が砕けた風に変わる朔は、まだ銀が帰って来ないので、その代わりに若葉の傍に居た。

銀が毎日高千穂に通って神に呼びかけ、そして帰って来た時は始終若葉の傍に居て見守っている――

心休まる日々がないだろうと思いながらも、朔もまた神がいつか銀の呼びかけに応えるのではないかと期待していた。


「体調はもう悪くない?はい蜜柑。薬湯もあるし菓子もあるし、何か欲しいものは?寒くない?」


「朔ちゃん過保護。咳も止まったしどこも悪くないよ。ちょっと胸の奥がごろごろ言うけど大丈夫。晴明様の薬はすごいね」


「おじい様の薬は都一なんだ。さあもう横になって。ずっと傍に居るから」


銀と夫婦になる約束を交わし、想いを交わし合ったことで穏やかな表情が増えた若葉が蜜柑を食べた後床に横になると、朔はすぐに寝入った若葉が口にした“胸の奥がごろごろする”という言葉を憂慮していた。


「ぎん…早くしろ。若葉は……」


まだ死なないとわかっているけれど、焦りを覚えてしまう。

――10年は、短すぎる。

人と妖との違いをまざまざと感じた朔は、遠い高千穂に想いを馳せて瞳を閉じると、意識を集中させた。