主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

結局若葉は布団の中に避難したまま出て来ようとせず、若葉から誘われたのだから絶対唇だけは奪ってやると決めていた銀は、口を閉ざしたまま腕を組んで若葉が顔を出すのを待つことにした。

長い沈黙が流れるとさすがに不安になったのか、若葉がそろりと顔を出す。

布団を握りしめている手が緩んだその隙にすかさず潜り込んだ銀は、はじめて愛しいと思った女の驚きに満ちた大きな瞳につい吹き出した。


「これから夫婦になろうというのにその顔はなんだ?お前まさかこの反応…初物ではあるまいし」


「初物って…どういう意味?」


「…なんでもない。あとお前が全快するまで息吹はここから出すつもりはないらしい。そして全快したら祝言を挙げさせると言っていた。俺たちの家に戻るのはその後だな」


「私元気だよ?もう歩けるようになったし…晴明様のお薬飲んでたら具合も良くなったし。ぎんちゃん早く帰ろうよ」


「…お前は胸を患った。晴明の薬とは一生付き合っていくことになる。ずっとだ。薬は俺が見ている前で必ず飲め。いいな?」


心配してくれる銀のために頷いた若葉は、この時悟った。


自分は…重たい病に罹っているのだ、と。


だがそれを口には出さず、お尻や腰などあちこち撫でてくる銀の手を止めることなく背中に腕を回して抱き着き、いずれは必ず先に死んでゆく運命と向かい合いながら、幸せな未来を想像した。


「ぎんちゃんと私の子供に耳と尻尾が生えてたら、お姉ちゃんが大変になっちゃうかも。きっとすごく可愛がってくれるよ。ぎんちゃんの手に負えなくなったら…」


「妙なことを言うな。確かに息吹が興奮してしまうかもしれないが、俺とお前の子供は俺たちの手で育てる。何せ俺はお前が赤子の時から育ててきたんだぞ、誰の手も借りない」


「嘘。私ほとんどお姉ちゃんに育てられたんだってこと知ってるんだから。ぎんちゃんは女遊びばっかりしてただけでしょ」


手痛い反撃を食らって銀が唇を尖らせると、若葉は急に顔を上げて銀の薄い唇に一瞬だけ唇を重ねて目を丸くさせた。

…丙との時は苦痛だったが…銀との口づけは気持ちよくて、もっとしたいと思ってしまう。


「今のはなんだ?口づけのつもりならば、これはその範疇じゃないぞ。いいか、本物の口づけを見せてやるから顔を上げろ」


「やだ。ぎんちゃん…眠くなってきた…。隣に居てね」


――若葉が眠る時は、必ず息をしているか確認してしまう。

薬の効果で眠りに落ちていった若葉の顔を息を詰めて見つめていた銀は、大きく息をついて若葉を抱きしめた。