主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

銀は丙を外に連れ出し、屋敷が見えなくなるまで丙を引きずるようにして歩いた。

丙は終始俯いたままで、絶縁宣言を下されたことに動揺は隠せないようだったが、銀は微塵も同情することなく土手に連れ出すと、腕を離した。

腕からは出血して着物を赤く染めていたが、銀は瞳を細めて腕を組むと、丙が顔を上げるまで待ち続けた。


「若葉に手を出していないというのは本当なのか?」


「…本当…です…。若葉は…銀さんのことが好きだったから…」


「…1年もの間何もなかったというのか?俺なら無理だ。惚れている女と床を共にしていながら何もなかったと?そんな言い訳が通用するとでも思っていたのか?」


「でも!本当なんです!…俺じゃなくて若葉に聞いて下さい。俺はもう…若葉に会えないんだ…」


――人は弱くて儚い生き物だ。

大切にしていたものを失うとそれまで均衡を保っていたものが崩れて、道を見失ってしまう。

今の丙がまさにそれだったが、銀は求めていた答えを導き出すと、背を向けて主さまの屋敷の方へと脚を向けた。


「わかった。もうお前と会うことはないだろう。…俺はお前を一生憎む。若葉の命を短くしたお前を許さない」


「…え…っ?それはどういう意味…」


「…若葉は入水自殺を図ったせいで胸をやられた。…持って10年だそうだ。お前が不貞など働かなければ…」


心底打ちのめされた丙は、頭を覆って崩れ落ちた。

自分のせいで若葉の寿命があと10年だと知らされて平静でいられるわけがなく、瞳からは涙が零れ落ちた。


「そんな…!若葉が…死んで…しまう…?」


「…お前なら若葉を幸せにできると思っていたが、俺の勘違いだったようだ。今後一切若葉に近付くな。…俺たちは残された10年を幸せに生きていく」


今度は振り返ることなく、声を上げる丙を振り切って屋敷へ戻った。

あと10年…短すぎる。

あと10年で一体何ができるのだろうか?

一体どうやったら、若葉を幸せにできるのだろうか?


「ぎんちゃんお帰りなさい。…ひのえちゃんは…」


「帰った。それよりお前は何故起きているんだ?寝ていろと言ったはずだぞ」


部屋に戻ると若葉が半身を起こしていたので、有無を言わさずまた寝かしつけた銀は、ふわふわ動いている尻尾を昔のようにぎゅっと握ってきた若葉の手を握りしめた。


…若葉を幸せにしてやろう。

どんなことがあっても、絶対に――